食は人を表す。書評:熱風2013年9月号 特集「食品」

2013/11/23

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の小冊子を発行しているのですが、今月の特集は、「食品」についてです。

食品は毎日口にしているもので、命をつなぐ大切なものですが、その大切さほどには注目されていないように思われます。今回の「熱風」の特集を読んでいると、「食品」というテーマには、現代社会の様々な問題点が内包されているのだということがよく分かりました。

「食品」特集のラインナップは、以下の通りです。

  • 日本の食の安全と農業の未来(真山仁)
  • 危険とされる中国食品–その現実と日中の意識差(富坂聰)
  • 就農賛歌が若者を潰す(神門善久)
  • 「肉を食べること」を考える(内澤旬子)
  • この国で食べること、この国で生きること。(枝元なほみ)
  • 日本を動かす”ファッションフード”(畑中三応子)
  • 頭をまっさらにして、正しい”真ん中”を探す。(養老孟司)

食料自給率という指標をどう捉えるのか

真山仁さんの「日本の食の安全と農業の未来」という記事で印象に残ったのは、食料自給率についての記述です。真山さんは食料自給率の低さに危機感をおぼえる、と語った上で、食料自給率を上げるためのポイントを書いています。この「食料自給率を上げるためのポイント」が僕にとっては、目からウロコでした。

真山さんが書いている「食料自給率を上げるためのポイント」。それは、「食料自給率を上げるためには、小麦を作らなければならない」という事です。米は余るほどにあるのですが、今の日本人はあまりお米を食べません。朝食にパンを食べる人がお米を食べる人を上回って久しく、スパゲッティやピザやホットケーキなど、小麦を使った料理がこれほど家庭に浸透しているにもかかわらず、小麦を作る人があまりいません。

小麦よりお米を作る理由は、お米を作ったほうが、農家は儲かるからです。国もお米を作る農家を支援してきました。(農協は自民党を長年にわたって支持してきました。)しかし、小麦を作らずに米を作る農業が、果たして日本の食生活の実態に即しているのでしょうか。

なお、養老孟司さんも記事の中で食料自給率について書いています。。養老さんは、食料自給率はカロリーベースの換算だから、穀物中心の率になるから食料自給率が低いように思えるけど、金額ベースで換算すると、日本は7割自給しているというのです。

続きはぜひ「熱風」を読んでいただきたいのですが、食料自給率という指標をどう捉えるかで、食品に関する問題の捉え方が変わってくることがよく分かります。

中国の食品問題の実態

富坂聰さんの「危険とされる中国食品」には、最近危険と言われる中国食品の問題についてわかりやすく説明されています。

富坂さんによると、中国食品の問題は大きく分けるとふたつあるそうです。1つは食料の生産者が貧しく、コスト削減に敏感にならざるを得ないため、現場がしばしば一線を踏み越えることで、コストを削減しようとするのです。養鶏場の鶏に成長促進剤を駐車して、3ヶ月で大人に成長する鶏を1ヶ月で出荷したというケースが過去にあったそうなのですが、実行した農家は「こんなにいい方法なのだから、使うのは当たり前なんじゃないか」という発想なのだそうです。

もう一つは、確信犯的にやる人たちの存在です。富坂さんは偽装肉の問題を例に説明されています。偽装肉はネズミの肉を使って作るのだそうです。入手先は国家の備蓄倉庫。備蓄倉庫に発生する大量のネズミを駆逐して、処分する時、ネズミを買いに来る奴に売る。もちろんそんなことを国が認めているわけじゃないので、現場の人のお小遣い稼ぎとして、公務員がやる。これは、やっていない人があまりいないくらいの規模なのだと言います。

こうした食品問題が起こる要因として、富坂さんは「いずれダメになることがわかっていても、目先の自分の利益を確保することに、みな汲々している。」からだと書いています。怖いです。本当に怖いです。目先の自分の利益を確保するためなら、人の健康を害してもいいと思っているわけですから。

しかも、富坂さんによると日本にはそこまで悪いと思われるものは、入ってきていないとのことですが、日本人が自分たちの便利さを追求したことも、中国の食品問題が進んだ要因の一つです。

農家として働くことの実態

神門善久さんが書いている「就農賛歌が若者を潰す」という記事には、農業の現状がストレートな言葉で書かれています。神門さんは、農業に不可欠な資質として4点挙げています。

1つ目は、「肉体的な強靭さ」です。屋外で作業をするので、寒暖にさらされ、風雨にさらされての作業が多い農業は、空調の効いた室内環境に慣れた日本人には過酷だというのです。2つ目は、動植物とコミュニケーションをする能力です。農業は動植物の成長にあわせて、物事を対応していかなければなりませんが、全ての物事を解決するためのマニュアルがあるわけではないので、マニュアルにあわせて対応することに慣れている日本人には、簡単ではないというのです。

3つ目は、科学的思考をする能力です。日垣隆さんの「父親のすすめ」という本にも書かれていましたが、百姓は百の作物を作るのが仕事なので、それぞれの生態系を把握しておく必要があります。新しい品種に対応するための、生産技術も日々進化しています。農家も勉強が必要なのです。4つ目は、周囲の人とのコミュニケーション能力です。日本ではお互いの農地が近接しているので、1箇所でもおかしな農業をすれば、集落全体の農業に影響を与えます。都会の人間関係から逃避して農村に来ても、本気で農業をやるならコミュニケーション能力が必要だというわけです。

そして、こうした条件をクリアした若者がいても、こうした若者を潰そうとする大人がいるというのです。詳細は「熱風」を読んでいただきたいのですが、これほど多くの問題を抱えている農業という産業に従事し、美味しい食品を提供してくれる農家の人を、僕は今まで軽く扱ってきたんじゃないかと思いました。

食品から見えてくる社会の問題

この他にも、流行りの食べ物を追いかける日本人の事について書いた「日本を動かす”ファッションフード”」や、「食べる」ということの本質を考えた「「肉を食べること」を考える」など、非常に読み応えのある記事が多く掲載されています。個人的には「グローバル企業とタックス・ヘイヴン」特集以来の読み応えです。

食品特集を読み終えて、改めて「物を食べる」という行為について、改めて考えさせられました。僕自身の事を振り返っても、家の近所にはコンビニがあり、お金を払えばそれなりに美味しい食品が食べられます。スーパーに行けば、季節を問わず様々な食品が所狭しと並べられ、お金を払えば、食品を手に入れることが出来ます。日本にいて、ある程度の所得を得ている人にとっては、食べ物を得ることは難しいことではないと思います。

しかし、その便利さの背景として、自分たちの都合を優先したことで、どのような問題が潜んでいるのかということについて、自分自身あまり目を向けていなかった気がします。「食品」という問題にきちんと向き合うと、単に食べ物の問題というわけではなく、食品を支える社会の背景も詳しく知ることが出来るというのが、今回の特集を読み終えて、強く実感しました。

「憲法改正」よりインパクトがある特集テーマではないかもしれませんが、ぜひ多くの人に読んでいただきたい1冊です。

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