熱風に連載されている川上量生さんの連載「鈴木さんにも分かるネットの未来」第10回:インターネットの中の国境

2013/10/22

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の小冊子を発行しているのですが、2012年11月からネット業界で仕事をしている人にとって、興味深い連載が始まっています。ドワンゴの会長であり、またスタジオジブリのプロデューサー見習いでもある川上量生さんの連載で、その名も「鈴木さんにもわかるネットの未来」です。

タイトルに書かれている「鈴木さん」とは、スタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんの事です。ネットの世界に詳しくない鈴木敏夫さん向けの連載ということで、この記事ではネット業界の現状がとてもわかり易く解説しています。個人的には、梅田望夫さんが7年前に書いた「ウェブ進化論」の続きが書かれていると思って、いつも楽しみにしています。「ウェブ進化論」が好きな人は、この連載はオススメです。

熱風は無料の小冊子ですが、目を通している方も少ないと思いますので、ここでは連載の中から、印象に残った文章を読書メモとして紹介します。前回休載だったのですが、休載だったのを補うくらい、文章量も多く、読み応えのある内容になっています。
第10回は、「インターネットの中の国境」です。

インターネットの世界は一種の治外法権

  • インターネットの世界は一種の治外法権となっていて、国家がコントロールすることが非常に難しい場所である
  • インターネットに国境がなくて国家権力も及ばないほうがいいと思っている理由は以下の通り。
    • 国家がそもそも嫌いなひと。インターネットに限らず、本来ならネット以外でも国家権力は少ないほうがいいと思っているパターン
    • 世界統一国家を夢想するひと。国家間で戦争だったり、経済格差があることを良しとせず、インターネットを通じて国境がなくなり、争いのない平等な世界統一国家が実現する方向へ進化する未来を想像するパターン
    • インターネットが言論の自由を実現する場を与えることを信じるひと。独裁政権などが言論統制できないメディアとしてインターネットが機能し、革命を起こす原動力となったり、政府などの腐敗を防止する役目を果たすと思っているパターン
    • 世の中の流れだと思っているひと。インターネットを中心にさまざまな技術革新や社会変革が起こっており、世界を動かす大きな流れに乗り遅れることをなんとなく恐れているパターン。
  • インターネットに国境を作ろうとする動きが活発化するだろうというのが著者の意見
  • 国家にとってインターネットが治外法権な場であり、社会の中でその領域がどんどん拡大していくことは国土の中で自分たちが支配する場所が、実質的に減っていくことであり、耐え難い話のはず
  • ネットに国境ができるかどうかで、21世紀の国家の運命は大きく変わることになる

国家がネットを支配する方法

  • インターネットを構成する物理的な要素を大ざぱにいうと、人間と設備のふたつ
  • インターネットを構成する物理的な要素がどこに存在するか、それが国内だったら「いうことを聞け」、そういうふうに国家のインターネットの支配は始まる。現状はそれ以外に方法がない
  • ビジネスを行っているのが海外の法人の場合やサーバーが海外にある場合には、国家の主権を及ぼすのが基本的に無理
  • ポルノ画像(動画)を例に挙げると、日本では成人向けの写真集や映画、ビデオなどではモザイクをかけるなどの処理がされていないと販売できない
  • インターネットでも同様。海外のサーバーにデータを格納したとしても、管理人が日本人であれば、逮捕される可能性がある
  • ただし、海外の人間が、海外のサーバーにアップロードした場合は日本の法律は適用されない
  • また、海外の人間が管理するインターネット掲示板に、日本人が無修正ポルノをアップロードして、削除しないで放置していたとしても管理人が日本人でなければ、日本の法律は適用されない。
  • 日本では「カラオケ法理」と呼ばれる考え方があり、著作権侵害動画をアップロードしているのがたとえユーザであっても、動画投稿サイトを運営しているのであれば、運営会社自体が著作権侵害をおこなっていると裁判所が判断する可能性が高い
  • 事前に投稿された動画をチェックするか、自主的に投稿された動画をパトロールすることが法的リスクを回避するために必要だが、動画サイトでこのように自主的に検閲を行っているのは、日本だけ。
  • アメリカの場合では「デジタルミレニアム著作権法」の解釈により、「Notice and Take Down」と呼ばれる削除申請があれば無条件に消すという手続きを行っていれば問題ないというYouTubeの主張が概ね認められていて、この方式が一般的
  • ちなみに、サイト自体は日本語対応していても、多くの動画サイトの削除申請は日本語では受け付けてくれない。

ネットの国家の作り方

  • インターネットにも国家の主権を確立する方法は二つ考えられる。
  • ひとつ目は、インターネットのアクセスログの保存と提出を義務付けて、国民の行動を監視すること。もうひとつは、自国の法律に従わない海外のサーバーへのアクセスに制限をかけること
  • 前者はサーバーが他国だろうが、自国の国民であれば法律に従わせられるはずということで、国民の行動の履歴を確保することで法律なりなんなりを守らせようという事です
  • 後者は国内で違法となるサイトは国内からのアクセスを遮断すればいいという理屈
  • 今のところ、後者は訴状にも載っていないものの、前者についてはかなり進行している
  • 日本も2012年に批准した「サイバー犯罪条約」では加盟国がインターネットプロバイダーにログを保存するように義務づける条項があり、サイバー犯罪防止のためという名目から、既にインターネット利用者の行動履歴を追跡できる環境が整備されつつある
  • 最近若いネットユーザの特徴として、モラルが異常に高い。悪いものは規制されたり罰せられるのが当然と考えているユーザの方が多い
  • 若いネットユーザのもう一つの特徴として、愛国心がとても強い
  • 長い間には、国家がネットを規制するということは案外受け入れられるんじゃないかというのが著者の予想。国家の側からすれば、規制する側の理屈として国家がネットを支配できないなんてありえないと最終的には判断するだろうと思う
  • 国家はネットをコントロールするチャンスを常に伺っている
  • ルールに従ってもらうための前提条件として、ネットの中で人間がルールを守っているかを把握できる能力が国家にないと話にならない
  • ルールに従わない場合には従うことを強制させるための武器が必要だが、ルールに従わない海外のサーバーには国内のアクセス制限をするしか最終的な解決策はないだろう

なぜ、アクセス制限が本命か?

  • 国家がネットで主権を行使するためには、アクセスログの保存だけでは不可。理由は以下のとおり。
  • ユーザ全員をアクセスログで監視するのは数が多すぎて現実的ではない。ネットユーザの数よりはサービスの数のほうが圧倒的に少ないので、サービス主体を制限すればいいアクセス制限の方が楽に実現できる。
  • アクセスログで監視する場合でも、海外サーバーで行われているサービスのログは国際的な協力が必要であり、自国だけではできない。つまり自分たち一国だけの政策でネットをコントロールすることができない。
  • 国際的な合意の得やすい犯罪などについては条約などを成立させられても、経済活動をコントロールするための政策については国際間の合意は難しい
  • アクセス制限をした場合は国家が決めたルールに従うサービスしかネット上に存在できないようにすることが可能なので、国家がネット上での政策的な自由度を持つことができる
  • 著者がインターネットのアクセス制限が実行される可能性が高いと思っている最大の理由は「税金」
  • 現在、他国にあるサーバーを利用して自国ユーザが収益をあげたとしても、国家は税金をとることが出来ない。法人税の高い日本には、AmazonやAppleやGoogleといった企業はほとんど利益を申告していない
  • 電子書籍などサーバーの通信だけで取引が完結してしまうような場合は、消費税すら払う必要がない
  • 現在、デジタルコンテンツを海外のサーバーから購入しても、利用者が日本国内にいる場合は、消費税を払わなければいけないという法律を作ろうとしている
  • しかし、海外のサーバーにしか記録がなければ正しい売上を捕捉することは技術的にも難しい
  • 国家が単独でネットに対して課税しようとするなら、アクセスを遮断する権利を行使することが不可欠

国境のないネットでの国際競争のルール

  • あらゆる経済活動について、規制の少ない国にサーバーをたてて運用したほうが得だという状況が発生する
  • 日本の動画サイトは自主パトロールを行っているため、DVDやテレビ番組、音楽PVなどをそのままアップロードする行為は行われないが、そういう動画は海外のサイトに投稿される。
  • iPhone,が画期的なのは携帯電話を作る上での日本国内だけにあったローカルルールを全部無視して作ったから
  • iモードの公式サイトでは総務省と警察庁の指示で、コミュニティサイトの運営が事実上禁止されていた
  • 日本だけ規制が緩い産業は、国際競争力の源泉になる可能性がある
  • 日本のコンテンツに魅力がある理由は、宗教的価値観が社会へ与える影響が少なくて、民主的な政治体制を持つという日本という国の特徴が、世界で最も自由な創作活動が出来る環境を作っているから
  • 児童ポルノ法の改正は、日本のコンテンツ産業が潜在的に持つ大きなアドバンテージを自ら手放すことになる

クラウド化する法人所得

  • 国家が最終的にネットに国境を作ろうとする最大の根拠は、税金の問題を解決するため
  • 海外のサーバーを経由して購入したサービスには消費税はかからない。日本の法人税もかからない
  • 多国籍企業でないとできない節税手法を、海外にあるクラウドサービスと組み合わせることで、だれでも簡単に出来るパッケージを提供するビジネスが誕生するのも時間の問題
  • クラウドを経由した法人所得の海外流出は、ネットに国境を設けて、意に沿わない海外サイトのアクセスを禁止するしかない
  • インターネット上に国境がない状態で、国家が法律などで規制をしようとすると、国内の企業だけが守らされ、海外の企業は守らなくても構わないという、実質的には海外企業の保護政策みたいなものになってしまう
  • 日本のIT企業の歴史とは数々の可能性の芽を日本が自ら摘んできた歴史でもある

中国がインターネットの世界をリードする日が来るのか

インターネットと国境。このテーマを目にした時、直ぐに思い出したのが中国という国の存在です。中国は世界的にも数少ない、インターネットのアクセスを制限している国の1つです。インターネットのオープン化を推進するGoogleが2010年3月に中国から検索事業の撤退を発表しましたが、国外のWebサイトへのアクセス制限は今も続いています。

これまで、インターネットはオープン化の流れが優勢でした。しかし、近年FacebookとiPhoneの台頭により、インターネットはクローズ化へと流れが傾きつつあります。(詳しくは「熱風に連載されている川上量生さんの連載「鈴木さんにも分かるネットの未来」第9回:オープンからクローズドへ」をご覧ください)

クローズド化の流れは、ネット上のサービスやインフラにとどまらず、法律にも大きな影響を与える可能性があるのだと、この記事を読んでいるとよく分かります。そこで、注目すべきなのは中国です。オープン化の流れが優勢だった頃、中国はインターネットの世界ではよい見方をされてはいなかったと思います。しかし、クローズド化に流れが傾きつつある現代では、アクセス制限を設け、自国のインターネットを運営し続けていた中国が、クローズド化するインターネット社会をリードする存在になるかもしれないと、この記事を読んでいて感じました。

中国には独自のサービスも発達しており、アリババなどは着々と国外への進出準備を進めているという印象があります。クローズド化の流れとあわせて、今後の中国の動きに注目していきたいと思います。

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