書評「次の野球」(株式会社横浜DeNAベイスターズ)

横浜DeNAベイスターズになってから、2011年に110万人だった観客動員数は、年々増加し、2016年には190万人を突破しました。横浜スタジアムは連日超満員で、スタジアム稼働率は90%を超えています。稼働率は、スタジアムのキャパシティに対して、いかに観客を動員できているかを示す数値ですが、Jリーグトップの川崎フロンターレが80%代という事を考えると、いかに横浜スタジアムの稼働率が高いかが分かります。

ただ、この5年間で劇的にチームの成績が上向いたわけではありません。2011年から2016年までの成績は、6位、6位、5位、5位、6位、そして3位。チームの成績に左右されない観客動員を目指した結果が、今の横浜DeNAベイスターズの人気なのです。以前紹介した、「空気のつくり方」という本には、どのようなマーケティング施策を実施したかが書かれていましたが、本書「次の野球」は、横浜DeNAベイスターズのスタッフや選手が考えた、野球をお客様に楽しんでもらうための様々なアイディアをまとめた1冊です。

突拍子もないアイディアと笑うなかれ

本書に書いてあるアイディアは、突拍子もないものばかりです。スタンドの座席がバランスボールのチケットに始まり、ファンがスタメンを決める権利、スタジアムドッグラン、外野のフェンスが水族館、試合時間を90分に制限してみる、選手にビジネスプランを考えさせる、月面にスタジアムを立てる、ウォータースライダー付きのスタジアム、などなど、実現性の低いアイディアも数多く登場します。

しかし、実現性が低いからと言って、これらのアイディアを笑うのは間違っています。本書に書いてあった、「白馬に乗って選手が登場する」というアイディアは、選手は登場しませんが、2016年の開幕戦で実現しました。目の前の常識を疑い、他の業種を当たっているものを単純に真似てみたり、絶対に必要だと思っていたものをなくしてみたり、極端に制限をしてみたり、複数のアイディアを組み合わせてみたり、といった、よいアイディアを考える方法が、分かりやすく説明されています。

お客さんが満足してくれるチームを作る監督

巻末に掲載されている、2015年シーズンまで監督を務めた中畑清さんは、糸井重里さんとの対談でこんな事を語っています。

今までの野球界がこうなんだ、こうすれば勝てるんだよって教えてあげて、その通りやれば勝てるよ。でも、金使えば勝てるっていう野球はもういいんじゃないかな。DeNAベイスターズの考え方っていうのはやっぱり自分たちのオリジナリティをつくっていくべきだと思う。
(中略)
面白いチームづくり。今までにない、勝つためにとか評価される監督になりたいとか、そんなの全然ないよ。お客さんが満足してくれる。お客さんが喜んでくれるっていうね。それで、順位はあとでついてくるもんだし、時々無理なことを宣言しちゃっているんだけど、でもそういうふうに目的を持たなきゃいけないチームでもあるわけだよ。

プロの監督でありながら、勝つために評価される監督になりたいとは思っていない。お客さんが満足してくれるチームをつくりたい。僕はこの考え方に驚きました。ありそうでなかった考え方ですが、北海道日本ハムファイターズの栗山監督のように、お客さんを意識して、チームを作る。そんな監督が増えてきた気がします。

中畑さんは、こうも語っています。

戦術や戦略という部分では、出涸らしに近い所まで来ていると思う。だから、これからは演出をどうするかというところと、勝つことだけがすべてなのか?という問いかけだよね。

野球はどんなに強いチームでも、10試合戦ったら、3試合は負けます。プロスポーツチームの戦いに、全戦全勝はありえません。だからこそ、ただただ勝つことを目指すだけでは、お客様に継続してスタジアムに来場してもらうのは、難しいのだと、思います。

本書に書かれているアイディアは、突拍子もないものばかりなので、鼻で笑うよう人もいるかもしれません。ただ、常識を疑い、様々なアイディアを考え、実行したからこそ、今の横浜DeNAベイスターズの人気があるのだと、本書は教えてくれます。スポーツビジネスに興味がある方だけでなく、アイディアの出し方、企画の考え方を学びたい人にもおすすめの1冊です。

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