書評「2011年の棚橋弘至と中邑真輔」(柳澤 健)

2017年、Twitterでもっとも使われたハッシュタグのスポーツ部門の第10位に「#njpw」というハッシュタグが入りました。「#njpw」とは、「New Japan Pro-Wrestling」のこと。つまり、新日本プロレスのことです。

新日本プロレスは、年々新しいファンを獲得し続けています。2018年1月4日に開催される東京ドーム大会「WRESTLE KINGDOM 12」のアンバサダーには、AKB48・SKE48の松井珠理奈を起用。プロレスにハマり、何度も会場に足を運んでいる松井だからこそ出来るプロモーションに嫌らしさはなく、プロレスに今まで興味がなかった人々を呼び込むきっかけになっています。

新日本プロレスの試合が観れる会員サイト「新日本プロレスワールド(月額999円)」の会員登録者数は5万人と言われており、日本国外の登録者も年々増えており、約1万人が日本国外の登録者と言われています。

2017年7月に開催したロサンゼルス大会は、2日分のチケットがわずか2時間で完売。追加のチケットもわずか2分で完売と、新日本プロレスの海外での人気の高さを証明してみせました。プロ野球も、Jリーグもなし得られていない、「海外のお客様にも楽しんでもらえる日本のスポーツコンテンツ」が、新日本プロレスなのです。今の新日本プロレスは、日本のスポーツビジネスのお手本というべき存在です。

しかし、2000年代の新日本プロレスは、現在のような隆盛が想像出来るような状況ではありませんでした。実質オーナーだったアントニオ猪木の気まぐれにより経営は悪化、試合直前の対戦相手の変更、主力選手の相次ぐ移籍など、いつ潰れてもおかしくない状況でした。

そんな状況の新日本プロレスを支えた、2人の選手がいます。

一人は、新しいお客様を獲得するために、自らプロモーションに奔走し、家族連れや子供にもプロレスを観てもらいたいと努力し続けた、「100年に1人の逸材」棚橋弘至。

もう一人は、総合格闘技を学び、IWGPヘビー級チャンピオンを史上最年少で獲得。現在はWWEで活躍し、世界中のプロレスファンの支持を集める、「キング・オブ・ストロングスタイル」中邑真輔。

本書「2011年の棚橋弘至と中邑真輔」は、2人のデビュー前、デビュー後の苦闘の歴史、そして現在の隆盛に至るまでを描いた1冊です。

「2人で1人」

本書を読んでいると、この2人は「2人で1人」なのではないかと、感じました。

プロレスに興味が薄い人にも、プロレスに関心がない人を積極的に呼び込もうと努力する棚橋、会場に来てもらった人々を独特のファイトスタイルで魅了する中邑。対戦相手に応じて、ファイトスタイルを変え、様々な技を繰り出しながら盛り上げていく棚橋、技の数は少ないけれど、技に入る前の動きや間合いで、人の目を引きつける中邑。お客様への向き合い方、ファイトスタイル、多くの点で2人の強みは異なります。

長年苦しみに耐えてきた2人

ただ、2人には、共通していることがあります。それは、「自分たちで新日本プロレスを立て直そう」と考え、苦しみに耐えてきたことです。

棚橋は自分のファイトスタイルが受け入れられず、お客様からブーイングを浴びた時期が何年もありました。

中邑は、総合格闘技で培った技術を活かしたファイトスタイルがお客様には受け入れられず、暗中模索の日々が長く続きました。

2人が成長するまでの間、どうにかして新日本プロレスが続いていたからこそ、現在の2人の活躍があります。本書は2人の物語であり、新日本プロレスの物語であり、低迷している間も支え続けて新しいお客様を受け入れたプロレスファンの物語でもあります。

中邑がいなければ棚橋はいなかったし、棚橋という存在があったからこそ、中邑が輝いたところもあったはず。
ふたりのうちどちらが欠けても、いまの新日本プロレスはなかった。棚橋と中邑は一対の存在なんです。
ただ、これまでは、どちらかと言えば僕に光が当たることが多かった。僕が太陽なら、中邑は月のような存在だった。だからこそ、中邑にはもっと光が当たってほしいと、僕はずっと願っていました。
振り返れば、僕たちはプロレスを通して生き方を競ってきたような気がします。
『俺はこう生きる。お前はどう生きるんだ?』って」
(棚橋弘至)

負けを糧に出来るのが真のプロレスラー

プロレスは面白い。レスラーは、「俺はこうしたい!」と口にして、お客様の支持を集めようとする。勝ち方にもプロレスラーの数だけパターンがあり、「勝つためには手段は選ばない」というレスラーもいる。

レスラーは強いだけではお客様の支持を集めることは出来ません。相手の技を受けられず、自分の技ばかりを繰り出すレスラーは、受け入れられません。ときには、負けることでお客様の支持を集めることもある。やられても、やられても、最後に勝つ。こういう戦い方を、お客様は支持しています。今の新日本プロレスが支持されるのは、負けている時期にひたむきに努力し、コツコツと改善を続けた、プロレスの試合のような経営努力を、選手、スタッフが続けてきたからだと思います。

2人のプロレスラーとしての人生は、まだまだこれから続きます。棚橋は中邑が輝かせてきたIWGPインターコンチのベルトを輝かせる役割を担い、さらに日本国内のみならず、海外のお客様を呼び込もうと、相変わらず全力でプロモーションを続けています。中邑はWWEに移籍後にあっという間にトップレスラーに登りつめ、アメリカのスポーツ・エンターテイメントの最前線で戦い続けています。

2人の歴史だけでなく、新日本プロレス復活までの歴史、そして、新日本プロレスが実現させた新しいスポーツ・エンターテイメントが、どのようにして作り上げられたのかもよく分かる1冊です。プロレスファンだけでなく、多くの方に読んでもらいたいです。