いきものがかりのリーダーが語る、言葉の”背景”が生み出す「彼らにしか言えない言葉」書評:Number「心が震える99の言葉。~Words of Athlete 2012~」

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2012年 12/20号 [雑誌]

Numberの最新号は、「心が震える99の言葉。~Words of Athlete 2012~」というタイトルどおり、今年話題になったアスリートの言葉を紹介しています。紹介されている言葉の中には、内村航平さんの「オリンピックには魔物がいた」や松田丈志さんの 「康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」といった言葉のエピソードが掲載されているのですが、僕が読んでいて印象に残った記事は、これら扱いの大きい記事とは別の記事でした。

いきものがかりのリーダーが語る「あなたにしか書けない言葉」

福原愛さんの記事の後に、ひっそりと掲載されていたのが、いきものがかりのリーダーである水野良樹さんが書いているエッセイ「そして僕は悔しがる。-あなたにしか書けない言葉について」。これは面白いエッセイでした。

水野さんは、いきものがかりのシングルA面曲の作詞・作曲を担当。「さくら」「ありがとう」「YELL」といった曲は、水野さんが作った楽曲です。そんな水野さんが、自ら作る歌詞とアスリートの言葉との違いについて書いています。

エッセイは、こんな一文で始まります。

あなたにしか書けない歌詞を書いてくれ。と言われて、ふと立ち止まって考えてしまうことがある。その「あなたにしか書けない」を成り立たせるものはなんだろう。

水野さんは、常に「あなたにしか書けない歌詞を書いてくれ。」という要求に応えてきたミュージシャンだと思っていたので、この言葉は僕にとってとても意外な印象を受けました。

言葉の”背景”を歌から切り離す

「あなたにしか書けない歌詞を書いてくれ。」ということに対する疑問を投げかけた後、水野さんはこんなことを語っています。

言葉には”背景”がある。いつ、どこで、誰が、など言葉の前提となる事柄は、”背景”として言葉の在り方に強い影響を与える。
(中略)
僕は歌を書くとき、”背景”をどうにかして歌から切り離そうとする。言葉の書き手である自分という”背景”が歌を縛りつけてしまわないように、歌がちゃんと誰かのものとなるように、歌をどう自由の身とさせるかに、頭を悩ます。

個人的な想いや考えが、大衆に受けいれられる歌の原点であることは、「上を向いて歩こう」の成り立ちからも理解していましたが、水野さんはその点を具体的に理解し、自分の物としていることが、この文章からよくわかります。

ただし、水野さんはこのような”背景”を切り離すことで人へと届く自分の歌について語った後、その対極として、アスリートが放つ言葉は、”背景”がわかるからこそ人の心をうつのだと書いています。

言葉の”背景”が生み出す「彼らにしか言えない言葉」

アスリートが放つありきたりな言葉がなぜ輝きを放つのか、それはアスリートが持ち合わせている”背景”が輝きを与えるからだ、と水野さんは書いています。”生き様”とも言い換えられる”背景”は、水野さんが歌の世界観から消そうと努力してきたものです。自分が消そうと努力してきた”背景”によって、言葉に力が与えられるときがあるということは、水野さんも理解されています。

ただし、水野さんとしては理解はしていても悔しいのでしょう。自らの表現とは対極の方法を取ることで、自らとは違う種類の感動を与えられるアスリートという存在が、ミュージシャンの本能として、悔しいのだと思います。水野さんは、エッセイを以下のような言葉で結んでいます。

これからもまた無数の言葉たちが輝きをまとい、名言に生まれ変わるのだろう。おそらく僕は、そのたびに心打たれ、そしてそのたびに心から、悔しがる。

このエッセイを読んでいると、「言葉」に関するエッセイというよりは、水野さん持っているソングライティングの秘密を読んでいるような気がして、とても面白かったです。このエッセイを読むだけでも、今回のNumberを読む価値はあると思います。

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