落合博満は超一流のエンターテイナーである。書評「なぜ日本人は落合博満が嫌いか?」(テリー伊藤)

2013/09/09

なぜ日本人は落合博満が嫌いか?

気になっていた本をようやく読むことができました。本書は、テリー伊藤さんが落合博満さんについて持論をまとめた1冊です。
僕は「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」で中日ファンの鈴木さんが展開する落合論が面白くて、落合さんの采配に興味をもっていたのですが、本書には落合采配ならぬ落合博満という人の魅力が何か、落合博満という人がなぜ評判が悪いのか、詳しく説明した上で、「日本人には落合博満が必要だ!」と熱く語った1冊です。

相手に想像させるのがエンターテイメント

本書で最も印象に残ったのは、落合博満が提供するエンターテイメントに対する著者の分析です。落合さんは、中日の監督時代に記者に対して試合の感想などを詳しくコメントすることはほとんどありませんでした。それ故に、マスコミの評判は悪く、「何を考えているのかわからない」と叩かれたこともありました。

しかし、著者は「何を考えているのかわからないから、想像する楽しみがある」と説明し、「説明ばかりのエンターテイメントに慣れた日本人には、落合博満のエンターテイメントが理解できない」と断言します。僕も注意深く見るようになってわかったのですが、落合さんは1つの試合の勝負に一喜一憂することはありません。シーズンが終わった時に、最高の結果を出すために、今何をすべきかを徹底的に考えぬいて、采配を振るっていました。したがって、目の前の試合しか見えていない人からすると、何を考えているのかわからない采配をしているように見えるのですが、シーズンを振り返ると「あの采配にはこんな意味があるのか!」とわかる采配をする。それが、落合さんの采配の凄さです。

それが理解できるようになったファンは、采配の意味を想像することで、より深く野球を見ることができるようになります。詳しく意図や意味を説明するわけではありませんが、これも立派なエンターテイメントです。現代はお笑い番組にテロップが映り、ドラマも背景を詳しく説明する番組が好まれるようになりました。

しかし、本当に観る人の事を考えたエンターテイメントが素晴らしいのでしょうか。本当のエンターテイメントの素晴らしさとは、簡単に説明できないものなんじゃないのでしょうか。高倉健さんのかっこ良さ、井上陽水の歌の世界など、凄さを伝えた上で、「なんでこうなるのか?」と相手に想像させ、受け取った人毎に解釈が生まれ、それを楽しむ。これが本当にエンターテイメントなんじゃないのでしょうか。

落合博満という人は、その事をよく理解した上で、体現できる現代では数少ないエンターテイナーではないか。その事をもっと日本人は、理解するべきではないか。
著者は本書の大半を使って、熱く熱く語っています。


エンターテインメントの世界に対し見る側は対象が遠くにいると近づいてほしい、
でも近づきすぎることは望まない。
親しみを求めながらも憧憬の念も抱いていたい。
その心理は複雑だ。距離感はとても大事だ。

(イチロー)

落合博満のエンターテイメント論が読める「熱風」の映画評論が面白い

そんな落合博満が「熱風」という雑誌で連載している映画評論「戦士の休息」がめちゃくちゃ面白いです。実は、落合さんは年間300本観たことがあるというほどの映画好き。そんな落合さんが語る映画評論は、落合さんが考えるエンターテイメント論を知るには、最適な連載だと思います。「熱風」は無料の雑誌なので、もしよかったら手にとってみてください。

小冊子「熱風」

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