もうダメだというときが仕事の始まり。書評「俺のフィロソフィ 仕組みで勝って、人で圧勝する俺のイタリアンの成功哲学」(坂本 孝,福井 康夫)

「ミシュラン星付き級の料理人が腕をふるい、高級店の 3分の 1の価格でおいしい料理を提供すること」。「フード原価率 60%超えでも、顧客を 1日 3回転以上させることで繁盛店の利益を実現すること」。「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」といった飲食店チェーンが実現させたビジネスモデルは、衝撃的でした。僕自身、俺のイタリアンの八重洲店が開店した当時、店の前で列を作っている人の多さに驚いたのを今でもよく覚えています。

経営者の坂本孝さんは、ブックオフの創業者としても知られています。中古本を取り扱う書店と飲食店。全く異なる会社を、いかにして成功させたのか。どのような考えで会社を経営しているのか。これらを対談形式でまとめたのが、本書「俺のフィロソフィ 仕組みで勝って、人で圧勝する俺のイタリアンの成功哲学」です。

もうダメだというときが仕事の始まり

本書で印象に残ったのは、「もうダメだというときが仕事の始まり」という言葉です。

この言葉は、京セラの創業者であり、坂本さんも通っていた経営塾「盛和塾」の主催者でもあった稲盛和夫さんの言葉だそうです。仕事をしていると、辛い時や、困難が必ず訪れます。坂本さん曰く、創業社長は、誰もが必ずつらい目にあって、「なぜ貧乏くじを自分ばかりが引かなければならないんだろうか」といった思いをするそうです。創業から5年くらいまでに何かの挫折をして、もうダメだと思うような瞬間が何回か来る、と。

そんな時に自分を奮い立たせるのは、誰かからかけてもらった言葉や、座右の銘だったり、小さなことが大きなきっかけになるのだそうです。きっかけを得るために、一人でこもらずに、自分の視野を広げるために、企業の社長の勉強会や後援会に行って、いろんな困難を乗り越えてきた人の体験談を聞く。特に、失敗を乗り越えた人の話しが、勇気を与えてくれるそうです。

ただ、坂本さんが語る「もうダメだというときが仕事の始まり」という意味は、少し違っています。「もうダメだ」と思ったら、違う場所に移ることも大切だというのです。坂本さんは、これまでに10回以上の失敗を経験しているといいます。成功していたといえるのは、中古ピアノ販売とブックオフだけ。踏ん張るだけでなく、傷が深くなる前に撤退し、再チャレンジする勇気も重要だというわけです。

壁を乗り越えようとする勇気と、撤退して再チャレンジする勇気。どちらも、経営者には必要なのだと思います。

「人の話を聞く」ことの大切さ

もう一つ印象に残ったのは、「人の話を聞く」ことの大切さです。

経営者は、自分の考えや会社としてのあるべき姿を、社員に伝えることが大切だと、よく書籍には書かれています。しかし、本書には、社長に自分の考えを伝えることと同じくらい、社員の話を聞くことが重要だと書かれています。

なぜ、社員の話を聞くことが重要なのか。それは、社員にとって「社長が自分の話を聞いてくれた」という事実が、会社や社長への信頼感を高めるために重要なのだということです。信頼感が高まった後に、社長が自分の考えを説くと、より社員に自分の考えが浸透するようになるのだというわけです。

人としての器が大きな人

坂本さんは、10年以上前にブックオフのアルバイトをしていた時、店舗の開店日にお目にかかったことがあります。どこにでもいそうな佇まいの方ですが、話し始めたら周りの空気がピリッとした空気に変わり、人間としての器の大きさを感じたことを、よく覚えています。

坂本さんが語っていることに、特別なことはありません。ただ、特別でないことを突き詰め、いかに真似できない差別化要素に育てるか。そのための考え方とヒントが、本書に詳しく書かれています。修羅場を何度もくぐってきた人だから語れる、重みのある言葉が詰まった1冊です。

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