書評「PITCH LEVEL: 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法」(岩政大樹)

本書「PITCH LEVEL: 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法」は、鹿島アントラーズ、タイ・プレミアリーグのEECテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山でプレーし、現在は東京ユナイテッドFCの選手兼コーチ、東京大学ア式蹴球部コーチとしても活躍されている岩政大樹さんが、「BEST TIMES」で連載していた自身のサッカーに対する考えをまとめた書籍です。

岩政さんとは、2017年6月に日本スポーツアナリスト協会が主催した『サッカーにおけるパフォーマンスデータの可能性』でパネルディスカッションをさせて頂きました。岩政さんと意見交換を出来た事は、とても貴重な経験で、多くの学びを得ることが出来ました。

「選手が試合中に何を考え、どんな事を感じながらプレーしているか

本書に書かれているのは、「選手が試合中に何を考え、どんな事を感じながらプレーしているか」です。

これまで選手が書く本は、半生を振りかえったり、印象に残る言葉を紹介したり、選手が実践しているメソッドを紹介するような本が多かったのですが、本書は「サッカー」というスポーツを通じて、岩政さんが感じたこと、学んだことが、多くの人に伝わるような言葉に噛み砕かれて書かれています。

ロジカルにサッカーを説明する

サッカーを言葉で説明するというテーマについては、以前こんな話を聞いた事があります。

アヤックスのワールドコーチングコンサルタントとして、外国のサッカー協会やクラブとのパートナーシップ下での活動や選手のスカウティングを担当し、オランダ代表U–13・14・15Futureチームの専属アナリストを務めている白井裕之さんにお会いした時、以下のように語ってらっしゃいました。

僕は、ロジカルに説明する能力は、アナリストとしての仕事を通じて身につけられる能力だと思っています。
例えば、2010年の南アフリカワールドカップでオランダ代表のキャプテンを務めていたマルク・ファン・ボメルは、以前に解説者をしていた頃、自分の経験、感覚に基づいて解説していたので、僕は彼の言葉が理解出来ませんでした。しかし、ファンボメルは指導者の資格を取得する過程で、分析論を勉強したことで、ロジカルにサッカーを分析し、説明出来るようになっていました。
日本スポーツアナリスト協会「Pick Up Analyst」Vol8.サッカー・白井裕之氏より)

日本のスポーツで最も遅れているのは、「言葉」ではないかと思う時があります。スポーツは長らく感覚の世界であると考えられていて、「バーンとやる!」というように、感覚をそのまま言葉にして説明する人がスポーツの解説をしたり、コーチをしたりしてきました。しかし、近年になってから、感覚をきちんと言葉や数字など、多くの人が理解出来るような情報に置き換えて説明しようとする人が増えてきました。

きっかけは、イチローや中田英寿のような選手が出てきた事だと思いますが、彼らの登場以降、ダルビッシュ有のように専門家より豊富な知識を持ち、自分の感覚を知識と照らし合わせて、言葉だけでなく映像や画像を駆使して説明できる選手も出てきました。また、専門家ではないファンの中にも、独学で知識を身につけ、専門家と同等レベルかそれ以上の知見を持っている人もいます。選手やファンが知識を身につけ、言葉や映像などでスポーツを説明できるようになった時代で、専門家に求められるのは、自身の感覚、経験を言葉におきかえ、ロジカルに分析、説明できる能力だと思います。岩政さんは、そんな現在の専門家や指導者に求められているスキルを身につけている人の1人です。

岩政さんの言葉はピッチに立った事がない人でもイメージしやすい言葉なのですが、岩政さんの言葉は、岩政さんが経験から導き出した言葉であり、人によっては解釈が異なる場合もあるでしょう。日本でスポーツを語るとき、外国の言葉をそのまま用いて(ボランチなど)、「いつ」「どこで」「何を」「どのように」「なぜ」「誰が」といった点を明確にせずに語ってしまうと、結局何を言っているのかよく分からないという事があります。白井さんのお話からは、オランダは言葉の解釈のズレによる誤解が生まれないように、コーチングライセンスを取得するときに教えているというわけです。とても、合理的だと思います。

本書のように、ピッチで選手が体感している事を、ピッチに立った事がない人にも分かるような言葉に置き換えて説明してくれている本は、多くはありません。
選手がプレー中にどんな事を考えているのか知りたい方には、おすすめです。

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