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書評「PK ~最も簡単なはずのゴールはなぜ決まらないのか?~」-フットボールの魅力を新たな切り口で読み解く良書-

   

PKはサッカーで恐らく最も簡単に奪えるボールです。ゴールラインからわずか11メートルのペナルティスポットから、静止したボールを蹴るだけです。目の前にはGKただ1人。練習で失敗する人はほとんどいません。しかし、PKが考案されてから120年以上が経つPKの歴史には、数々のドラマが生まれました。

1994年のアメリカワールドカップでは、大会で最も活躍した選手の1人であるロベルト・バッジョが、PKを失敗したシーンを覚えている人は多いと思います。また、EURO2012では、アンドレア・ピルロが蹴った「パネンカ」と呼ばれるチップキックが流れを変え、イングランド代表に勝ったこともあります。

簡単なはずのPKが難しくなってしまうのはなぜだろうか。PKが成功する秘訣はあるのか。そんな事を深く考えた人がいます。PKを様々な切り口から秘密を解き明かそうとし、多くの人に取材を重ね、サッカーの新しい魅力を紹介したのが、本書「PK ~最も簡単なはずのゴールはなぜ決まらないのか?~」です。

PK戦に強いドイツ、PK戦に弱いイングランド

本書の冒頭で紹介されていますが、イングランド代表は不思議とPK戦に弱い。勝ったイメージがありません。普段PKを蹴っている選手でも、イングランド代表でPKを蹴る時は、成功率が低くなるそうです。なぜ、イングランド代表はPK戦に勝てないのか。その事を調べようとしたのが、本書を書くきっかけになっています。

PK戦に強いのは、ドイツ代表です。元イングランド代表のリネカーは、「サッカーは単純。22人がボールを奪い合い、最後はドイツが勝つスポーツ」と語ったことがあるけど、PK戦になるとドイツ代表が勝つイメージありません。

ちなみに、イングランド代表は、1990年のワールドカップ、1996年のヨーロッパ選手権で、ドイツにPKで負けています。ちなみに、イングランド代表と同じようにPK戦に弱かったのがオランダ代表でしたが、2014年のワールドカップでコスタリカにPKで勝ち、イメージを払拭した。その時、監督を務めたルイス・ファン・ハールは、PK戦のためにGKを替えています。

PKにまつわる謎を解き明かせ

本書は、PKにまつわる謎を解き明かすために、様々な観点から取材を試みています。ペトル・チェフにPKを止めるこつを訪ね、「パネンカ」の生みの親であるアントニン・パネンカにルーツを取材したり、ホセ・ルイス・チラベルトにGKがPKを蹴るメリットについて訪ね、ビッグマッチで主審がPKを与えるのはどんな場面なのか訪ね、ビッグデータを使って成功率を分析したり、本当に丹念に丹念に調べあげています。

読めば読むほど、PK戦は「心理戦」なのだなと、実感します。PK戦では、大観衆が見守る中、キッカーは1人でボールに蹴るポイントに向かい、試合を戦って蓄積された疲労をかかえながら、狙った場所にコントロールしなければなりません。逆にゴールキーパーは、キッカーを惑わし、精神的に優位に立つ必要があります。11対11で繰り広げられるサッカーの試合とは、全く別の駆け引きが繰り広げられているのです。

したがって、サッカーの試合とは異なり、「PK戦の練習は出来ない」という識者も多くいます。ヨハン・クライフがその1人ですが、作者はその疑問に対しても、丁寧にしらべ、作者なりの解決策を提示しています。また、成功率が高いPKの蹴り方についても語られています。成功率が高いPKの蹴り方の例として、遠藤保仁のコロコロPKが紹介されているのは、日本人としては嬉しい限りです。

ノンフィクションとして読み応えのある1冊

ちなみに、4年ほど前に、「PKを外すキッカーが知らず知らずやってしまう3つの仕草」という記事を書いたことがあります。個人的に思い当たる、PKを外すキッカーがやっている癖について書いた記事なのですが、本書を読みながら、国は違っても考えることは同じなのだなぁと思ってしまいました。

本書は、サッカーに興味がある人も、それほど詳しくない人も、読んで損はない1冊です。作者の丁寧な取材に裏打ちされた様々な仮説と検証結果、そして提示される新たな疑問を追っているだけでも、飽きません。翻訳本ですが、翻訳の質も高く、非常に読みやすい快作です。ぜひ読んでみてください。

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