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世界を遊び場に。書評「プラントハンター」(西畠清順)

   

世の中にはいろんな仕事があります。プラントハンターという仕事をご存知でしょうか。

仕事の依頼人は、花の卸業者、植物園の研究員、フラワーデザイナー、活け花の先生といったプロのひとばかり。

「天皇陛下がご出席になる園遊会にふさわしい松の木がほしい」
「ピカソがつくった壺に似合う植物を探してください」
「タイの王族に献上する植物を一ヶ月後までに揃えておいて」

本書「プラントハンター」は、明治元年からつづく植物卸問屋「花宇」の5台目として、依頼人のこんな要求に応え、日本各地のみならず、世界各国あらゆるところを駆けずり回り、依頼のあった植物をお客様に必ず届ける著者の奮闘を記した1冊です。

すべてを手に入れた人が最後に求めるもの

本書の冒頭に、フィリピンの大富豪とのエピソードが紹介されています。

莫大な富を武器に政治の中枢に影響力を持ち、大統領一歩手前になりかけた人物がいるそうですが、数年前から大金をはたいて世界中から植物を買い集めているそうです。なぜ、大金をはたいて世界中から植物を集めているのか。そんなに金があれば他のものを買えばよいのに。著者がそんな質問をしたところ、その人物の植物関連業務を管理している人は、こう答えたそうです。

もうすでにあらゆるものを手に入れているんだよ。
豪邸もあるし、自家用機も、何十台というスーパーカーも、
ハーレーダビッドソンも、自分専用のガソリンスタンドも持っている。
ほしいものを全部手に入れたとき、
最後にほしくなったのが植物だったんだ。

自分が美しいと思える植物、誰も持っていない植物に囲まれて暮らしたい。これがその人物の最後の欲望だというのです。

そもそも、プラントハンターとは17世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで王族や貴族のために世界中の珍しい植物を求めて冒険し、花の苗や種を持ち帰る人々のことだそうです。古代から、物質的に満たされて豊かな生活を送っていても、どうしても埋められないものがある。それを埋めるものが、植物だというわけです。

「植物を編集する」仕事。

プラントハンターは、簡単な仕事ではありません。植物に関する知識、枝を剪定する技術、植物を持ち込むための検疫の手続き、ルーズな海外業者との交渉など、やるべき事、学ぶべき事は無数にあり、タフな仕事です。そんなタフな仕事を、著者はまるで世界中を遊び場か公園のように飛び回りながら、楽しんでいる様子が読んでいると伝わってきます。

先日、ブックディレクターの幅允孝さんの仕事を紹介した時「編集の時代に現れた新しいクリエイター」だと書きましたが、今回紹介したプラントハンターという仕事も、ブックディレクター同様に「編集の時代に現れた新しいクリエイター」の仕事といえるのではないのでしょうか。

現代はインターネットの発達により、簡単に情報が手に入る時代だと言われています。しかし、インターネット上で簡単に手に入る情報は、手に入るコストが低い分、その情報だけでは価値が低いのです。だから、情報と情報を組み合わせ、誰も知らない情報や体験を作り出す事ができる「編集者」の価値が、現代では高まっていることを、改めて感じます。

「植物の力」を借りて生きる

僕たちは、植物の力を借りて生きています。
ご飯を食べられるのも、こうしてブログを書けるのも、植物のおかげです。人は植物無しでは、生きていけません。秘境に咲く貴重な花に感動することもあれば、道端に咲く花に癒やされることもあります。そんな「植物の力」を信じ、多くの人に伝えたくて著者は今日も世界中を飛び回っているはずです。

「世界を遊び場に」なんて言葉を聞いたことがありますが、
著者ほどそんな言葉が似合う人はいません。これからの活躍に期待したいと思います。

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