女性たちが作った男の映画。書評「ジブリの教科書7 紅の豚」

僕は、宮﨑駿の作品の中では、「紅の豚」が一番好きです。ポルコ・ロッソのきざな台詞、ジーナの美しさ、どこか憎めない空賊たち、といった魅力的なキャラクターたちだけでなく、飛行艇が水から飛び立つシーン、雲の中を飛んでいるシーンといった、飛行艇が飛んでいる動きも魅力的で、特に男性が好きな作品だと言われています。

「紅の豚」はいかにして生まれたのか。当時の制作の舞台裏を振り返るとともに、様々な方の「紅の豚」の感想をまとめたのが、本書「ジブリの教科書7 紅の豚」です。

主要なスタッフは全て女性

本書で印象に残ったのは、宮﨑駿さんの管理能力の高さを裏付けるエピソードです。

当時のスタジオジブリは、社員制度を導入したばかり。第一弾作品の「おもひでぽろぽろ」の制作を進めながら、次回作を準備しなければなりませんでした。「紅の豚」の制作が決まったものの、主要なスタッフは「おもひでぽろぽろ」に関わっていて、疲労困憊。「紅の豚」はスタッフの再編成をした上で、制作を進めなければなりませんでした。

そんな逆境の中、宮崎さんはあるアイディアを思いつきます。それが「主要なスタッフは、全て女性に任せる」というアイディアでした。これは、当時のアニメーション業界にとって、画期的な出来事だったそうです。これによって、現場の空気を盛り上げようとしたのです。

そして、主要なスタッフは女性で作る、という決断は、映画にとって重要なあるシーンを生み出す要因にもなります。カーチスに壊された飛行機を、ピッコロ社で修理するシーン。飛行機の修理に携わるのは、女性たちです。男は出稼ぎに出ている中で、女性が戦闘機を作るというこのシーンは、本来ならリアリティはありません。しかし、映画で描かれたピッコロ社の状況は、当日のスタジオジブリそのものでもありました。だからこそ、このシーンは、映画の中で印象に残るシーンになっているのです。

「女はよく働くし、粘り強い」ピッコロが語っていたこの台詞は、宮崎さんの素直な感想だったのかもしれません。

スタッフの力にあわせた絵作り

宮崎さんの工夫は、これだけではありません。主要スタッフに比べて力の劣るスタッフの能力を引き出すために、スタジオジブリが得意とする細かい動きや日常芝居を減らして、飛行艇のダイナミックなシーンを増やし、海や山など色数の少ない美術を用いることで、細やかな表現が必要な箇所を減らす。スタッフの負担を減らしながら、質の高い作品を作るための工夫が施された作品なのです。

自分の理想を追い求めるのではなく、いかに今の状況で100%のものを作るか。宮﨑さんの現実主義者としての一面が、本書からは読み取れます。

「紅の豚」は、宮﨑さんの美学がつまった作品です。男の美学が詰まった作品を作ったのは、魅力的な女性たち。そんな観点で「紅の豚」という作品を観てみると、また違った楽しみ方が出来るのかもしれません。

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