未来は俺等の手の中。地方だから伝えられる今の日本のリアル。書評「ヒップホップの詩人たち」(都築 響一)

HONZに書いてあった書評を読んで、気になっていた1冊。ついに読むことが出来ました。

著者によると、いちばん意欲的な現代美術の展覧会は、地方の美術館で開かれ、新しいファッションは、田舎の不良が生み出しているのだと言います。そして、いちばん刺激的な音楽も、東京ではなく地方で生まれているのだというのです。

CDの売上げが低下し、ダウンロード数も増えない中、音楽業界には暗い話題ばかりが飛び交っています。売れるのはアイドルばかり。そんな音楽業界において、刺激的な音楽にのせて、自らのリアルな心情を言葉にするラッパーは、むしろ地方で活動することを選んでいるというのです。

本書「ヒップホップの詩人たち」は、そんな地方で活躍するラッパー15人のインタビューと、歌詞で構成された、599ページにわたる大作です。

本書を読んでいて、印象に残ったことが2つあります。

現状への不満と生きることへの強い意欲

1つ目は、15人のラッパーがそれぞれ抱えている、「現状への不満と生きることへの強い意欲」です。

15人のラッパーは、アメリカのヒップホップのように、「金が欲しい」「いい女が欲しい」という歌詞ばかりを歌っているわけではありません。むしろ、自身が抱える葛藤、怒り、悲しみ、といったリアルな感情を素直に言葉にしています。「俺はここにいる」「うまくいかない人生「でも、俺は生きる」。歌詞を読んでいると、彼らのそんな熱い想いが伝わってきました。

ラッパーは光、コトバは影、
強くたたきあげ、それを長く響かせ
影響を手に操るものだけが独り時の制約への抵抗をつづける
掃いて捨てる程ためこんだ嫉妬、
おびえや恐れを 見てろここに吐いて捨てる
「BOSSIZM」(THA BLUE HERB)

地方にいてこそ分かる日本のリアル

2つ目は、日本の現状です。

本書には、様々なバックグラウンドを持ったラッパーが登場します。何度も鑑別所に入った者もいれば、B.I.G JOEのように麻薬の運び屋をやってオーストラリアで逮捕され、6年間現地の刑務所に入っていた者もいます。日本には貧困はないという言葉を耳にすることがありますが、本書を読んでいると、日本が目指してきた「お金がある豊かな生活」の裏の顔を見ている気分になってきます。

東京ではなく、郊外もしくは地方にリアルな言葉を発信するラッパーが出てきているのは、地方が凄い勢いで変化しているのを、肌で感じているからなのかもしれません。東京にいてはわからない、日本の現状が本書には映しだされています。

僕は、本書でも紹介されている、THA BLUE HERBの「未来は俺等の手の中」という曲が大好きです。「何時だろうと朝は眠い」という言葉で始まり、「とことんのどん底まで そのまま 掴んだその手を離すな」という言葉で終わるこの曲を聴き終わると、いつも心にやる気が満ちてくるのを感じます。

「未来は俺等の手の中」が、どんな背景で生まれたのか、その事がわかっただけでも、読んだかいがありました。15人のラッパーがつむぎだす、リアルな言葉は読み応えがあります。そのリアルな言葉を読むだけでも、読む価値がある1冊です。

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