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書評「変えることが難しいことを変える。 」(岩渕 健輔)-前編:対外国で変えることが難しいことを変える-

   

変えることが難しいことを変える。

2015年ラグビーワールドカップで、ラグビー日本代表は史上初の同大会3勝をおさめました。エディー・ジョーンズヘッドコーチの手腕や、五郎丸、リーチ・マイケルといった選手たちが注目される中、陰で日本ラグビーの躍進を支えた人がいます。それは、岩渕健輔GMです。

エディー・ジョーンズヘッドコーチを招聘し、強化体制を整え、強豪国とのマッチメイクを実現し、選手のメンタリティーを変えた岩渕GMの取り組みがなければ、日本ラグビーの躍進はありえませんでした。

岩渕さんは、日本ラグビーをいかに変えたのか。本書「変えることが難しいことを変える」は、岩渕さんがGM就任後に行った取り組みを中心に、何をどのように変えていったのかをまとめた1冊です。岩渕さんは、自らが変えたことを、7つに分けて紹介しています。

  1. 目標を変える
  2. メンタリティーを変える
  3. 現実との距離を変える〜日本ラグビーが抱いてきた神話〜
  4. ラグビーのイメージを変える
  5. 日本の方向性を変える〜エディー・ジョーンズが目指す攻撃的ラグビー〜
  6. 日本代表のアイデンティティーを変える
  7. 未来を変える〜すべては2021年のために〜

興味深かったのは、「変えることが難しいことを変える」ための、考え方と手法です。そこで、2回に分けて、岩渕さんがいかに、変えることが難しいことを変えたかを紹介します。前編は、マッチメイクの交渉を通じて、対外国向けに変えることが難しいことを変えたこと、です。

強豪国とのマッチメイクを実現させるための工夫

本書を読んで初めて知ったのですが、ラグビーには「ティア」とよばれるグループ分けが存在します。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカといった強豪国は「ティア1」、日本は「ティア2」に属するのですが、グループ分けに明確なルールはありません。

当然、テストマッチのマッチメイクでは、ティア1のチームはティア1のチーム同士でテストマッチを実施しようとします。しかも、テストマッチが開催できるのは、1年間で6週間のみ。ラグビーは原則として1週間に1試合しか開催できないので、年間6試合しか開催できません。チームを強化するために強豪国とのテストマッチを組もうとしても、そう簡単に組めるものではないのです。また、ラグビー界を牛耳るワールドラグビーという組織がマッチメイクに介入してくるため、テストマッチを組もうとした相手との試合が変更になることもあるそうです。

岩渕さんはこうした様々な制約に苦労しつつ、強豪国とのマッチメイクを実現させていきます。岩渕さんが考えたのは、ティア1のチームが移動するときに、日本に立ち寄ってもらい、移動日に試合を組むというアイディアです。こうすれば、相手は調整も兼ねて試合が出来るだけでなく、収入も得ることが出来ます。日本代表としては、貴重なティア1のチームとの強化試合を実現させることが出来ます。

しかし、この方法も常に有効ではなく、ワールドラグビーは日本の対策を踏まえたうえで、マッチメイクに介入してきます。新たなルールも設けられるはずです。日本のスキージャンプが強すぎるときに、ヨーロッパの国に優位になるようにルールが改正されましたが、それと同じです。日本人はスポーツの世界に公平さや、フェアさを求める傾向が強いですが、舞台裏はドロドロとした政治劇が日常的に繰り広げられているのだということを、岩渕さんの言葉は教えてくれます。

「ギヴ・アンド・テイク」の交渉をいかにして身につけたのか

日本人は、海外の関係者とこうした「ギヴ・アンド・テイク」の交渉は苦手とされています。では、岩渕さんはいかにして交渉術を身につけたのでしょうか。

岩渕さんが交渉術を身につけたのは、ケンブリッジ大学に留学した時です。岩渕さんは「バーシティマッチ」と呼ばれる、ケンブリッジ大学とオックスフォード大学との歴史ある定期戦に出場しました。しかし、出場にこぎつけるまでには、政党の総裁選挙顔負けの駆け引きがあったといいます。

ケンブリッジ大学のレベルはそこまで高くなく、岩渕さんは「遅かれ早かれレギュラーとして試合に出れるのではないか」と考えていました、ところが入部してしばらくするとあることに気がつきます。練習してもボールが一向に回ってこない。それだけではなく、ウイングやフルバックへのポジション変更を打診されます。岩渕さんのポジションであるスタンドオフは、ラグビーでは特別なポジションです。いかに選手として能力が高くても、アジアからやってきた人間にスタンドオフを任せるつもりはなかったのです。

そこで岩渕さんは、試合に出場する選手をコーチとキャプテンで決めている事に目をつけ、自分を選んでもらえるようなキャプテンに担ぎ、試合に出ようと考えたのです。半年近くかけて、少しずつ担ごうとしている選手を支持してくれる選手を増やしていきます。結果的に、岩渕さんが担いだキャプテンは当選。岩渕さんバーシティマッチに出場することが出来ました。

スポーツで勝つには、ナイーブなままではいられない

こうした試合に出るためにあの手この手を使うことに、眉をひそめる人はいるかもしれません。しかし、ヨーロッパのスポーツの裏側は、こうしたドロドロとした政治劇や争いがそこら中で起こっているのです。この中でプレーするには、選手もナイーブなままではいられません。自ら駆け引きして物事を優位に運ぶような、ずる賢さが求められるのです。

岩渕さんの言葉は、日本人に足りないものを具体的に示しています。よく、サッカーの世界では、日本人には「マリーシア(ずる賢さ)」が足りないと言われたりします。ずる賢さとは、悪意のあるプレーをするということではなく、駆け引きして、自分が優位に立てるように物事を進める事を指します。正論を吐くだけでは、何も物事は変わらないのです。

繰り返しになりますが、公平さやフェアさだけでは、「変えることが難しいことを変える」ことは出来ない。その事を、本書は読み手につきつけます。多くの人に読んで欲しい1冊です。

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