サッカーにおける自由と規律 -ジーコジャパンから風間フロンターレまで-

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先週の多摩川クラシコに完敗した川崎フロンターレ。第8節を終えて、1勝3分け4敗と苦しい状況が続いています。
そんな川崎フロンターレについて、今週は以下の様な記事がネットにアップされました。

誤算続きでも風間監督更迭の可能性は低い。川崎に浸透する選手たちの自発的な意識

風間監督ははぐらかすが、いくつかの状況証拠から、チーム作りをする上で監督が選手たちを大人として扱い、自律して戦えるチームを作っているのは確実だ。
(中略)
風間監督は、前提として、プロサッカー選手である以上、試合に出て活躍したいとの考えをすべての選手が持っており、その考えに従った生活を送るはずだと考えている。そうした考えの対極にあるのが、選手を管理して、1から10まで規律で縛るタイプのチーム作りである。

低迷川崎に見る「自由」の難しさ 監督の戦術に戸惑う選手

自由を標榜するサッカーに対して、ある中心選手はこう語っていた。「自由って難しいんだよね…」。

この2つの記事に共通するテーマは「自由と規律」です。サッカーにおける自由と規律というテーマは、これまで日本サッカーで何度も取り上げられてきました。そこで過去の日本代表が「自由と規律」というテーマにいかに向き合ったのか振り返った上で、川崎フロンターレの取組が何を目指しているのかを考えたいと思います。

自由の意味を理解できなかったジーコ・ジャパン

”自由”という言葉が最も強調されたのは、ジーコが率いた日本代表の頃です。日韓W杯の頃のフィリップ・トルシエは、フィールド外では1人の人間としての振る舞いを重視する一方で、フィールド内では自らが決めた規律を重視しました。その戦い方は、W杯ベスト16という結果は残しましたが、あまりに規律を重視する戦い方に疑問の声も上がりました。そこで、就任したのがジーコ監督です。

ジーコはトルシエとは逆に、選手の自主性を重視したチーム作りを進めました。しかし、自主性の解釈をめぐって選手間の意見や意識の食い違いが起こり、結果的には予選リーグ敗退。前回大会を上回る結果を残せなかったことで、「自由と規律」というテーマは、より「規律」に軸をおいたチーム作りに傾く事になります。

選手に考える力をトレーニングで植えつけようとしたオシム・ジャパンと岡田ジャパン

ドイツW杯以降に就任したのが、イビチャ・オシム監督です。オシム監督は動きながら判断力を磨くトレーニングを行い、規律を守りながら自由を表現できるように試みていたという印象があります。しかし、この試みは、オシム監督が病に倒れたことで、頓挫することになります。

オシム監督の後を引き継いだ岡田武史監督は、オシム監督とは別のアプローチで選手に考える力を身につけさせようと試みます。目標を「W杯ベスト4」と明確にした上で、目標を達成するために何をしなければならないのか。どういうサッカーをしなければならないのか、フィールドの内外で選手に考えさせるような取組を実施します。しかし、当初は主導権を握る戦い方を志向していましたが、中村俊輔など主力選手の不調や怪我もあって守備重視の戦い方に方針を転換。すべき事を明確にした戦い方をW杯で実践した結果、W杯ベスト16まで勝ち進みますが、PK戦で敗れたパラグアイ戦は守備重視、規律重視の戦い方の限界を感じさせるものでした。

ザック・ジャパンでも「自由と規律」を理解しているのは少数派

南アフリカW杯以降日本代表の監督に就任したアルベルト・ザッケローニは、ここまでは細かい決まり事を守らせつつ、選手の個性を活かしたチーム作りができていると思います。しかし、規律を守りつつ個性を発揮できる選手は、本田圭佑、長友佑都、遠藤保仁などまだ少数派にとどまっています。ジーコジャパン以降の日本代表の課題となっている「自由と規律」というテーマは、完全には解決していないと言えるのではないのでしょうか。

風間監督が目指すチーム像とは

川崎フロンターレが目指している”自立して戦えるチーム”とは、どのようなチームなのでしょうか。自立して戦っているチームとして、僕が思い出したのは「ほぼ日刊イトイ新聞」です。糸井重里さんは「ほぼ日の就職論」というコンテンツの中で、自社の働き方について、こう語っています。

すごい発言だと
思われるかもしれませんけど、
ウチの会社って
社員ひとりひとりが
自分で決裁しているんです。

そうすると、それぞれが
会社の全体を見通せるようになってくる。
(中略)
自分のうえのほうに
なにか違うルールがある、
なんて思って仕事をしているあいだは
やっぱり、苦しいんですよ。

ウチの会社のやつらが
おもしろがって仕事してるのって、
結局、自己決裁してるからなんですね。

ここで、注目したいのが「自分で決裁するほうが、面白がって仕事ができる」という発言です。サッカーに例えるなら、「個人個人の判断や発想を活かすことで、思いもがけないプレーをする」といったことでしょうか。これは、風間監督が就任会見で語っていた「90分間ボールを持ち続けて選手が楽しんでやること」というサッカーにつながるんじゃないのでしょうか。風間監督が目指しているのは、こういう考え方が土台にあるサッカーなのです。

糸井重里さんは「Unusual」というコンテンツの中で、ほぼ日という組織のことについてこう語っています。

昔は、てっぺんにボスがいて、
その下にたくさんの人が働いてて、
こういうヒエラルキーがあったでしょ。
ぼくは、これを倒してしまったら、
船のかたちになると思った。
(中略)
働く人たちはみんな、フラットなところにいる。
で、かつてトップにいた人は、
上にいるんじゃなくて、いちばん前にいる。
それは、いくらフラットな組織だといっても、
みんながそれぞれに助け合うように
かみ合っていかないと仕事にならないから。
(中略)
ぼくはずっとフリーで、一人で仕事してきました。
義務として会社に所属して仕事をすることが
嫌いだったんです。
ほんとはぼく以外のみんなも
そう感じてるんじゃないかと思ったし、
だとしたら、乗りたくて乗る船に乗ろうと思った。

従来の監督というのは、ピラミッド型に選手に対して指示することで、組織を機能させようとしていました。しかし、風間監督が目指している組織は、ピラミッド型の組織ではありません。自分で決済することで面白がって仕事をしながら、みんながそれぞれに助け合うようにかみあって仕事をしていくことを目指した、ほぼ日型の組織だといっては言いすぎでしょうか。

ただしこうした組織を作るのは、簡単ではありません。それこそ「非常識を常識に」するくらい、選手やスタッフを含めたチーム全体の考え方を180度変える必要があるからです。現在の成績は、チーム全体の戸惑いを象徴した結果と言っても言い過ぎではないと思います。

落合博満と風間八宏の先発メンバーに対する考え方

少し横道にそれますが、僕は風間監督が就任してから川崎フロンターレの試合をじっくりと観るようになったのですが、観ていると先発メンバーへの信頼度が他の監督と比べても高いと感じます。それ故に交代枠を使い切らない試合が多いことは「誤算続きでも風間監督更迭の可能性は低い。川崎に浸透する選手たちの自発的な意識」にも書いてあるので割愛しますが、先発メンバーについて同じように考えている監督は他にもいます。元中日監督の落合博満さんです。

落合博満さんの投手起用について、評論家の権藤博さんは「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の中でこのように語っています。この言葉思い出して、風間監督の選手起用は落合さんの投手起用と同じだと思ったのが、「風間八宏はサッカー界の落合博満である。」を書くきっかけになりました)

川井が先発した時に初回に5点取られた試合があったんです。
でもその後すぐに替えずに7回まで投げさせたんですが、それを観た時、「こいつ、俺と同じ事しやがった!」と思った。
先発が中6日もかけて準備したんだから、簡単に代わるんじゃない、と。
自分の試合なんだから、自分で責任取れって言ってるんだと思った。

何のために規律が必要なのか

川崎フロンターレが現在直面している「自由と規律」という問題は、日本社会全体の問題といってもいいと思います。ルールを守るのが得意な日本人は、逆にルールがなくなるとどうしていいか戸惑う傾向にあるようです。しかし、サッカーというスポーツは、ルールというべきチームの約束事が変わった時や通用しなかった時にこそ、個人個人の真のスキルが試されます。日本人は、真のスキルが試される局面での戦い方が得意ではありません。一つの例が、ACLの3チーム敗退という結果です。

そもそも規律は何のために必要なのでしょうか。それは、結果を出すため、成果を出すために必要だからです。冒頭に紹介した「自由」「自主性」をテーマにした記事を読んだ人は、必ず「約束事(規律)を作るべきだ」と言うのですが、約束事を決めたとたん、元々持っていた魅力がなくなってしまうということもあります。規律があればいいというわけでは無いのです。

最後に、4Gamer.netというサイトに掲載されていた「ネットとリアルの和解」がニコニコ超会議の役割――ニコニコ超会議2の総括をする「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」というコンテンツの中で、ニコニコ超会議を主催していたドワンゴの組織論について関係者が語っていた言葉が、とてもおもしろかったので抜粋してご紹介します。「自由と規律」というテーマは、サッカーチームだけでなく、企業も直面する問題です。どう折り合いをつけているのかという例として、とても興味深いやり取りだと思いました。

  • 公式放送とかのガイドラインはない。
  • サイトが大きくなればなるほど,ルールを作れっていう圧力が強くなっていくと思うんだけど,それに対してどこまで抵抗できるのかっていうのが,ニコニコのユニークさを保つための大きなポイント。
  • お客さんの方がルールを作れっていう人が多い。ルールを作らないってことを「逃げてる」って思っている人って多い気がするんだよね。でも,そうじゃなくて。僕らは,むしろ「覚悟を決めて,作らないことにしている」
  • ルールを作らないっていうのは,想定外のことが起こることを許容するってことですからね。リスクもあるし,その都度判断しなくちゃいけないから,対応コストが掛かる。
  • ルールって何のため?ってことだと思うんですよ。それが面白くなるためのルールだったら作ってもいいと思うんだけど,なんか大抵の場合は,「面倒が起こらないためのルール」じゃないですか。そんなものを作っても面白くない。
  • 何かの問題だったり,課題に対して,組織で解決する方法と,人で解決する方法ってあると思うんです。で,普通の会社は組織で解決する方法を選ぶわけですよね。まともな会社は,やっぱりそういう方法を採ると思うんです。
  • 僕らは別にね,ソフトバンクの孫正義さんみたいに100年続く会社を作ろうなんて,これっぽっちも思ってない。そうじゃなくってね,本当に“今,面白い会社を作りたい”んですよ。来年じゃなくて今年,明日じゃなくて今日。今,この時代に面白い会社ってものを,僕は作りたいんです。

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