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書評「里山を創生する「デザイン的思考」」(岩佐 十良)-デザインは問題解決と目的達成のプロセス-

   

新潟県大沢山温泉に、予約が取れない旅館があります。地元の古民家を改装して造られた旅館「里山十帖」は、雑誌「自遊人」が2014年に開業してから、開業後わずか3ヶ月で客室稼働率9割を超え、グッドデザイン賞などさまざまな賞を受賞しています。

開業前、里山十帖のリノベーション費用の融資を銀行に依頼した時、銀行からは「100%失敗する」と言われたそうです。里山十帖は、人里離れた山奥にあるだけでなく、日本有数の豪雪地帯にあるため、人を呼びこむのは簡単ではありません。今、地方創生に重要なのは、「観光」だと言われ、観光産業の大切さを様々な人が語っています。では、どうしたら魅力的な場所を作れるのか。どうしたら人に喜んでもらえるのか。その答えは、「デザイン的思考」にありました。

本書「里山を創生する「デザイン的思考」」は、里山十帖をオープンするまでの経緯と、どのようにして里山十帖がお客様に来てもらえる施設になったのか、実現させるための考え方「デザイン的思考」とは何か、について書かれた1冊です。

「デザイン的思考」とはなにか

本書で読んでもらいたいのは、「デザイン思考」について書かれた第2章です。まずは、デザインとは何かを知らなければなりません。デザインとは、綺麗なヴィジュアルを書いたり、レイアウトを整える行為だと捉えている人はいますが、本書ではこのように書かれています。

デザインとはそこにある図形や、最終的にアウトプットされた形を指すと思われがちですが、それはあくまで表面的な部分に過ぎません。本来のデザインとは問題解決や目的達成へのプロセスを指します。

そして、デザイナーが、クライアントが「ある特定の層に、ある商品を売りたい」と考えた場合、ターゲットとなる層がどのような生活を営み、どのような嗜好を持っているか分析した上で、その深層心理に働きかける手法を考えます。ここまでの基本的な戦略、ロジックが非常に重要であり、ロジックに矛盾や問題があれば、製品そのものの仕様を考えなおしたり、代える提案をしてこそデザイナーだというのです。そして、手法を考えることが「デザイン的思考」だというわけです。

まずはユーザーになってみる

では、デザイン的思考とは、どのように行うべきなのか。著者は「データをみない」「下調べをしない」ことを提唱します。本屋にも行かないし、ネットも見ない。では、どうやって考える取っ掛かりを作るのか。それは、「まずは自分が最初のユーザーになってみる」のです。僕も昔上司に言われました。保険の仕事をするなら、まず契約してみる。家電の仕事をしようと思ったら、自分ならどうするか考えてみる。そうしないと、企画なんて出来ないというわけです。

例えば、すし特集を雑誌でやるなら、まずは寿司屋に入ってみて、実際に食べてみます。そして、どんな寿司を好むのか、どんな人が訪れるのか、どんな店がよいのか、自分の肌感覚や心に引っかかったことと照らし合わせながら、徹底的に考えます。複数のユーザー像を想像し、どんなニーズを持っているのか、徹底的に考えるのです。

ユーザー像とニーズが想像できたら、ユーザー像とニーズから共通する点を探ります。その共通する点から、ユーザー像を創り出します。共通点から創られたユーザーこそが、ターゲットとすべきユーザーです。そのユーザーが実際に存在するのか、考えた企画が本当に効果があるのかは、データと照らしあわせて検証します。そして、企画を実行し、検証していくのです。

ユーザー像とニーズを考える手法は、「ペルソナ」とか「ユーザーシナリオ」と言われたりします。Webデザインやプロダクトデザインを作るときに行われる手法ですが、旅館のように施設の運営の考え方として取り入れられているのは、珍しいと思います。

様々な業種・業態の問題解決手法として使える「デザイン的思考」

里山十帖の考え方は、地方創生だけでなく、様々な業種・業態で問題を解決するにあたって、とても参考になります。サッカーのスタジアムにお客様に来てもらいたいと考える時、チームが強くなれば、お客様に来てもらえると考えがちですが、家族で楽しい時間を過ごしたいという人がいた場合、家族で楽しめるイベントを、試合より重視しているかもしれません。あるいは、仲間とサッカーを観ながらお酒を飲みたい人がいれば、グルメやお酒が美味しいことを重視している人もいるかもしれません。こうして、デザイン的思考でスポーツも考えたら、様々な解決策が浮かんでくるような気がします。

僕自身、仕事を通じてデザイン的思考については学んでいたのですが、日々の仕事に忙殺されていて、まずは自分がユーザーになってみるという、一番大切な事を忘れていたことを思い出させてくれました。地方創生について勉強している人だけでなく、「デザイン思考」について学んでいる人にもおすすめの1冊です。

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