nishi19 breaking news

スポーツでもっと楽しい未来を作る

成功の秘訣は、マジックではなくロジック。書評「見て、話して、ともに戦え U-23世代をどう育てれば勝利に導けるか」(関塚隆)

      2013/07/15

見て、話して、ともに戦え U-23世代をどう育てれば勝利に導けるか

1年前のロンドンオリンピック。男子サッカーは女子に比べると下馬評は低く、予選リーグ突破さえも危ぶまれていました。しかし、本大会が始まると、初戦のスペイン戦に勝利した勢いのまま予選リーグを突破し、メダルまであと一歩の4位まで躍進しました。

オリンピック男子サッカー日本代表を率いていたのは、関塚隆監督です。
本書は、関塚さんがオリンピックサッカー男子代表をどのような考え方をもって、どのように指導していたのかをまとめた1冊です。なお、本書はサッカーの細かい戦術などは掲載せず、関塚さんが実践したマネジメント術に絞って書かれていますので、サッカーを詳しく知らない人でも、読みやすい内容になっています。

むしろ、サッカーは詳しくないけれど、オリンピック男子サッカー代表の戦い方に共感をおぼえた人にこそ、読んでもらいたい1冊です。なぜなら、本書には、ビジネスにも活かせる”勝てるチーム作り”のヒントが書かれているからです。

「簡単に答えを教えない」

Jリーグは、過去に「こういう時はこうする」と、約束事を明確に教える指導者が結果を残してきた傾向があります。言われた事をきちんとやり遂げる事を得意とする日本人の国民性にあわせた指導法かもしれませんが、こうしたチームの弱点として、教えられていない局面にぶつかると脆さをみせる傾向がありました。

関塚さんは、選手に対して「簡単に答えを教えない」ように指導していたそうです。なぜそうしていたかというと、簡単に「答え」を教えてしまうと自主性や判断力も身につかなくなってしまう。それでは、教えられていない局面に陥った時、自分たちで問題を解決することができない。と考えていたからだそうです。
(ちなみに、関塚さんは本書の中で、「指摘せずにいかに改善させていくかが、指導者としての腕の見せ所」と語っています。)

僕はサッカーが好きでよく観ているのですが、「こういう時はこうする」と答えを教える指導はすぐに結果が出る傾向にありますが、ある段階で成長が行き詰まり、次第に結果が出なくなる傾向にあります。これは、選手が自分たちで問題を解決出来ないため、敵に対応されると成果が出なくなってしまうのです。

逆に、「簡単に答えを教えない」指導は、最初はなかなか結果が出ませんが、チームの判断力が向上するにつれて結果が出るようになり、結果的に長い間安定した成果が出ている傾向があります。関塚さんは、わかった上で4年後のオリンピックで結果を出すために、あえて「簡単に答えを教えない」指導を行なっていたのかもしれません。

選手内の”和”を育んでいくのがキャプテン

興味深かったのは、関塚さんのキャプテンを選ぶ時の考え方です。
関塚さんはキャプテンを選ぶ時の条件として、以下の2点を挙げています。

  1. レギュラーとして試合に出る確率が高いこと
  2. バランス感覚に優れていること

関塚さんは、チームをまとめたい時はキャプテンにまず自分の考えを伝え、キャプテンからチームにメッセージを発信してもらうようにしていたそうです。そのためには、キャプテンにはチーム全員に話せる関係性を築き、誰に対しても影響力のある人物が最適です。

予選中に大学生だった山村和也がキャプテンを務めていたのは、コミュニケーション能力が高く、誰に対しても別け隔てなく接することが出来る選手だったからだそうです。また、本大会では吉田麻也をキャプテン指名しています。指名した理由は、オーバーエイジが入ってきたため、チームのバランスを見て変えたということ、吉田のコミュニケーション能力に期待して選んだのだそうです。

同じような考え方でキャプテンを選んでいたのが、元日本代表の岡田武史監督です。大会直前に長谷部誠をキャプテンに指名した理由について、岡田さんは「誰でも別け隔てなく話せる人物がよいと思った」と語っています。たしかに「誰でも別け隔てなく話せる人物」という言葉は、長谷部の人物像をよく表しています。直前のキャプテン就任でしたが長谷部は見事に期待に答え、現在は誰もが認める日本代表のキャプテンになりました。

本田圭佑や中田英寿のようにカリスマ性があって強烈なリーダーシップで周りを引っ張っていく人物ではなく、吉田麻也や長谷部誠のような人物が日本代表のキャプテンを務める理由は、「コミュニケーション能力が高く、誰に対しても別け隔てなく接することが出来る選手」を、歴代の日本代表監督がチームをまとめるために重要視してきたからだと思います。そんな人物のことを、関塚さんは「選手内の”和”を育てていく人物」と評しています。

あたり前の事をきちんと実践することが驚くべき成果を生む

本書には、他にも「成長する環境を作る」「消極派に目を向ける」「やらせるのではなく、納得させる」「リーダーはブレるな」「正のエネルギーで固める」といった言葉が書かれていますが、書かれていることに目新しい内容はありません。ビジネス書をよく読む人であれば、何度も聞いたことがある言葉だと思います。

スポーツの世界で成果を上げるには、何らかのマジックのような特殊な技術が必要なのではないか、と思っている人がいるかもしれません。しかし、本書を読み終えると、スポーツの世界で成果を上げるには、ビジネス同様にあたり前の事をきちんと実践することが、成果をあげるための唯一の方法なのだと、改めて実感します。

ビジネス書を手に取る人は、現状を打開するための「マジック」がないか探している人が多い気がしますが、本当に現状を打開するために必要なのは、明確な目標設定を行い、実行するための具体的な「ロジック」なのだと思います。

「マジック」を期待した人には、物足りない1冊かも知れません。でも、「ロジック」の重要性を知っている人は、本書に書かれている内容に共感できるのではないのでしょうか。

関連記事

関連商品

 -