基準を決めるのは、あなた自身。書評「採用基準」(伊賀泰代)

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米国、欧州、アジア、南米、東欧など世界44カ国に80以上の支社を持つグローバルな戦略系コンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)。エリート中のエリートが入社する企業の採用は、どのような基準で行われているのか。

本書は、マッキンゼーの採用担当者を長年勤めた著者が、マッキンゼーの採用基準の一端を明らかにするとともに、日本社会に必要な人材の条件についても提言した1冊です。

地頭がよければいいわけではない

本書の冒頭には、まずマッキンゼーの採用に関する誤解について、説明しています。「地頭の良い人を求めている」「分析が得意な人を求めている」「優等生を求めている」「優秀な日本人を求めている」。こうしたマッキンゼーが求めていると思われていた人材の条件について、本書には”誤解”だと書かれています。

本書によると、マッキンゼーが求めている人材の条件は以下の3点です。

  1. リーダーシップがあること
  2. 地頭がいいこと
  3. 英語ができること

また、本書では「地頭」についても、「地頭がよければ良いというものではない」と語ります。コンサルタント業務の根幹は、企業を率いる経営者の方から相談を受け、解決を支援するのが仕事です。仕事の流れは、おおまかに言って、3つのプロセスに分かれます。

  1. 経営課題の相談を受ける
  2. 問題の解決方法を見つける
  3. 問題を解決する

このうち地頭が関係するのは「問題の解決方法を見つける」ところだけです。例えば、「経営課題の相談を受ける」ためには、経営者から課題を相談してもらうために信頼関係を作ることが必要で、地頭がよければ信頼関係が作られるわけではありません。

また、地頭がよければ「問題の解決方法を見つける」ことが出来るわけではありません。地頭がよいから「問題の解決方法」が見つかるか、というわけではないというのです。問題の解決方法は、名だたる経営者が考えぬいても考えられない方法を考える必要があります。そのためには、「最適な解決方法」を選択することより、「問題の解決方法を徹底的に考え抜く」ことが必要だというのです。

リーダーシップの定義

マッキンゼーが求めているスキルは、「リーダーシップ」だと書かれています。では、マッキンゼーが考える「リーダーシップ」とは何か。それは、「他者を巻き込んででも、現状を変えていこうとする意志」と言い換えられるかもしれません。解くべき課題(イシュー)の定義から、分析の設計、関連する組織や人とのコミュニケーションを含む一連の問題解決プロセスにおいて、他者を巻き込んで、問題を解決していこうとする意志。すなわち、リーダーシップが求められます。

リーダーシップを基盤として、ロジカルシンキング、仮説思考、フレームワークといった思考テクニックを使って、問題を解決していきます。問題解決の技術として、思考テクニックばかりが注目されがちですが、基盤となるリーダーシップこそが重要だと、本書には書かれています。そして、問題解決に必要なリーダーシップが、日本社会には決定的に不足しているというのです。

なぜ個人にリーダーシップが求められるのか

日本社会では、リーダーシップというのは「指揮命令系統の上位者が持つべきもの」と考えられていました。リーダーシップの本を探すと、スポーツの監督や、有名な企業の社長の本が目につくことがありますが、指揮命令系統の上位者だけがリーダーシップを持っていれば良い、という考えがよく現れている例だと思います。

本書に書かれているリーダーシップの定義は、従来の定義とは異なります。本書に書かれているリーダーシップは、「他者を巻き込んででも、現状を変えていこうとする意志」のことであり、本来誰にでもあるものなのです。しかし、日本では、リーダーシップの定義が誤解されているだけでなく、「成果より調和(空気)を重んじる」社会によって、リーダーシップを育むことが出来ていないというわけです。

本書に書かれていることの大半は、「リーダーシップ」の重要性です。では、なぜ「リーダーシップ」がこれからの人材に必要なのでしょうか。それは、乱暴に言ってしまうと、組織がリーダーシップを発揮する時代が終わったからです。

高度成長期は、本書に書かれているリーダーシップと呼ばれるものは、企業や国が担っていました。企業が仕事(という問題)を与え、その仕事をこなすことで、企業も自分も成長出来る。そして、企業の成長が国の成長につながる。高度成長期というのは、ある意味目標を持ちやすく、幸福な時代だったのです。だから、日本人は個人個人がリーダーシップをもつ必要はなかったのです。

しかし、高度成長期が終わり、企業がリーダーシップを持って、人を率いていくことは難しくなりました。そうなると、企業から与えられた課題をこなすのではなく、個人個人で課題を見つけて解決していく必要があるのですが、それは簡単ではありません。日本人の大半は、リーダーシップを持って行動することに「慣れていない」からです。

「慣れていない」リーダーシップをどのようにして獲得していくのか。本書には、そのヒントが書かれています。リーダーシップの発揮の仕方は人それぞれで、どうなったから成功したというわけではありません。リーダーシップを発揮するのは、自分のためです。自分のためのリーダーシップ。これが、現代社会で生き残るために最も重要なスキルなのです。

本書のタイトルになっている「採用基準」とは、「リーダーシップを基準に人材を採用する」という意味が込められています。そして、採用時のリーダーシップには、「企業が判断するリーダーシップ」と、「採用される側のリーダーシップ」の2つが存在します。

2013年様々な書籍を読んできましたが、ビジネス書でベストセラーになっている書籍の大半は、「自分の人生を、自分で決める」大切さを訴えたものでした。

本書は、その決定版ともいえる1冊です。

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