二度と作れないし、もう二度とやりたくないくらいやり切ることが、感動を生む。書評「「ななつ星」物語: めぐり逢う旅と「豪華列車」誕生の秘話」(一志 治夫 )

2013年10月、JR九州は今までの日本で運行したことがない列車の運行を開始しました。定員30人、14室の部屋は全てスイート、3泊4日の列車の旅の最高金額は70万円。列車の旅と観光を組み合わせた、日本で初めてのクルーズトレイン、その名も「ななつ星」です。

この列車は、「九州を元気にする」というコンセプトを掲げ、2人の人物が中心になって作られました。1人は、JR九州の社長を務める唐池恒二さん。もう1人は、デザイナーの水戸岡鋭治さん。2人は、長年コンビを組んで、JR九州に斬新な列車を作り、運行してきました。その2人の仕事の総決算が、この「ななつ星」だったのです。

本書、「「ななつ星」物語: めぐり逢う旅と「豪華列車」誕生の秘話」は、そんな豪華列車がいかに生まれたのかをまとめた、ノンフィクション作品です。

苦難の連続

「ななつ星」が誕生するまでは、苦難の連続でした。妥協を許さない唐池さんと水戸岡さんの指示により、現場は大混乱。スケジュールは遅れに遅れ、誰もが「完成しないのでは」と思う中、様々な人の努力と苦労のかいあって、どうにか完成へとこぎつけます。

「ななつ星」の立ちあげに語った方は、口々にこう語ります。

こんなクルマは二度と作れないし、もう二度とやりたくない

感動を生むのは手間

唐池さんは、「感動を生むのは手間」と語り、徹底的に手間をかけることにこだわりました。水戸岡さんは、「渾身の力で、ここまで大丈夫かというくらいやり切る」ために、細部にまでこだわり続けました。描いた図面は1万枚以上。企業のトップがビジョンを描き、デザイナーが目に見える形に落とし込み、職人が形にする。モノを作ることのすべてが、「ななつ星」のプロジェクトに詰まっています。

現在、「ななつ星」は半年先まで予約がいっぱいだそうです。本書を読み終えて、いつか自分の両親に「ななつ星」で九州を巡る旅行をプレゼントしたい。そんな気持ちになりました。

読み手の心に火をつけてくれる作品

著者は、サッカーファンには、三浦知良の「足に魂こめました」「たったひとりのワールドカップ」、ドーハの悲劇を都並敏史の視点で描いた「狂気の左サイドバック」などの作品で知られ、高い評価を得ています。著者が関係者から引き出した言葉を元に構成された文章を読んでいると、読み手は自然とプロジェクトの熱に引き込まれ、読み始めてから一気に読んでしまいました。

読み手の心に火をつける。
久々に、そんな作品に出会いました。
夏休みにぜひ読んで欲しい1冊です。

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