書評「怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」(白井裕之)

日本でサッカーが人気があるのだなと実感するのは、サッカーに関して様々な意見を目にする機会があることです。サッカーの情報を取り扱うメディアがあるだけでなく、Twtitter、Facebook、ブログのようなメディアで、様々な立場の人が意見を述べていて、面白いコメントには反応が返ってきているのを目にするたびに、サッカーというスポーツに対する注目の高さを実感します。

しかし、サッカーというスポーツが人気があるがゆえに、サッカーというスポーツが初めて観た人でも分かりやすいスポーツであるがゆえに、サッカーに対する解釈も多種多様です。したがって、サッカーを分析するにあたっても、人によって基準が違っているため、同じ試合の記事であっても、別の試合の分析記事を読んでいるように感じる事がありました。

サッカーに限らず物事を分析するために必要なのは、まずは分析する基準を設ける事です。基準を設けたうえで、基準に照らし合わせて、起こった事象を良いか悪いか判断し、事象が起こっている要因や側面を可能な限り細かく噛み砕いて明確にする。これが分析です。しかし、僕が普段読んでいるメディアや解説者によるサッカー分析の多くは、分析基準が明確ではありません。したがって、評価した事象が良いか悪いか曖昧なまま分析が行われている事が多いと、僕は感じています。

サッカーはどのように分析すればよいのか。実はサッカーの観戦術のような本はいくつも出版されていますが、きちんと定義した本はありませんでした。しかし、これから紹介する本は、「サッカー分析の教科書」となる可能性があります。なぜなら、著者はオランダの名門クラブであるアヤックスで長年ビデオ分析アナリストとして活躍し、現在はオランダ代表U-13・14・15のビデオ分析アナリストを務める「分析のスペシャリスト」が書いた本だからです。

本書「怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析」は、長年オランダの名門クラブであるアヤックスで長年ビデオ分析アナリストとして活躍し、現在はオランダ代表U-13・14・15のビデオ分析アナリストを務める「分析のスペシャリスト」が、サッカーを分析するためのメソッドを紹介している書籍です。

サッカーとはどんなスポーツなのか

本書では、サッカーというスポーツの原則を踏まえて、サッカーというスポーツがどのような要素で成り立っているのかを洗い出した上で、分析する基準を明確にしています。この基準は「戦術に詳しい」とか「フォーメーションに詳しい」人でなくても理解出来るものです。

むしろ、戦術に詳しいとか、フォーメーションに詳しいといった人ほど、サッカーの分析がきちんと出来ない可能性があるのではないかと、本書を読んでいると感じます。そして、現代はツールが増え、多くのデータが取得出来るようになりましたが、取得出来るようになったデータの量が増えたからこそ、基準なき分析がいかに無意味かも本書は教えてくれます。

オランダでは、サッカーというスポーツを分析するにあたって、どのような基準を設けているのでしょうか。オランダでは、サッカーというスポーツを以下のように定義しているそうです。

  • 1つのボール、2つのゴール、2つのチーム、フィールド、相対する方向、ルールが必要
  • サッカーはゲーム
  • ゲームの目的は相手より1点でも多く得点して勝つこと

そして、サッカーというスポーツでチームがやるべき事を「チームファンクション」と定義しています。チームファンクションは、「攻撃」「攻撃→守備」「守備」「守備→攻撃」という4点で成り立っています。そして、サッカーにおける攻撃と守備を以下のように定義しています。

  • 【攻撃】ビルドアップ→得点する
  • 【守備】ビルドアップの妨害→失点を防ぐ

「ビルドアップ」とは、ゴールキックを視点にシュートチャンスを作り出すまでのプレーの事を指します。攻撃と守備でチームがやるべき事を、オランダでは「チームタスク」と定義しています。こうした、チームファンクションとチームタスクを踏まえて、目的である試合に勝つためのプレースタイルを決め、試合に勝つための方法を決め、対戦相手との力関係を踏まえて、目的が達成出来ているか、目的が達成出来ていない場合にどうすればよいかを考えるのが、サッカーの分析です。本書ではこうしたサッカーを分析するための基準を丁寧に説明した上で、サッカーに詳しくない人でも分析する術を教えてくれます。

5W1Hに基いてサッカーを分析する

ちなみに僕はサッカーを分析する時は、「5W1H」に基いて分析することをおすすめしています。

  • When(いつ):前半、後半といった時間帯 など
  • Where(どこで):自陣ゴール前、敵陣ゴール前、センターサークル付近 など
  • Who(誰が):FW、MF、DF、GK
  • What(何を):シュート、パス、ドリブル、タックル、インターセプト、など
  • Why(なぜ):ゴールを決めるため、ボールを運ぶため、ボールを奪うため、 など
  • How(どのように):素早く移動する、強くヘディングする、長い距離のキックを蹴る、 など

「5W1H」はサッカーを知らない人でも、社会人として仕事をしている人なら、意識せずとも日々実践しています。日々自分がやっていることを、サッカーに置き換えてみれば、それほど難しくなくサッカーを分析することが出来ると思います。ぜひやってみてください。

日本ではサッカーを分析し、表現できる人がまだまだ少ない

日本ではシステムやフォーメーションという言葉で説明される、「4-4-2」や「4-3-3」といったフォーメーションについてや、監督が採用している局地的な戦術に対する分析については、とても細かく分析している記事やTwitterでの投稿を見かけます。しかし、サッカーというスポーツの定義を踏まえて、目的が達成出来ているか否かをきちんと分析している文章を読む機会は多くありません。それは、日本ではサッカーを分析し、表現出来る人がまだまだ少ないからだと思います。

本書には、サッカーというスポーツを深く楽しみ、より深く理解するための方法が書かれています。サッカーを観始めた人でも、サッカーをよく観ている人でも、指導者を志したり、指導者としてサッカーの指導をされている人でも、新たな気づきが得られる書籍だと思います。ぜひ読んでみてください。おすすめです。

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