書評「SHOE DOG」(フィル・ナイト)

人生は成長だ。成長がなければ死ぬしかない。

本書「SHOE DOG」に出てくる、フィル・ナイトの言葉です。オニヅカ(現在のアシックス)の代理店としてスタートした「ブルーリボン」という会社は、その後オニヅカと仲違いし、自らのブランドを立ち上げます。その名は「ナイキ」。多くの人が知るナイキは、靴の販売代理店から成長し、急速に成長し続け、現在の地位を築き上げました。

本書「SHOE DOG」は、フィル・ナイトが創業から株式公開までの時期を中心に、ナイキの歩みをまとめた1冊です。アメリカでは発売後ベストセラーになっており、日本でも話題になっていた本なので、楽しみにしていました。

本書を読んでいて、思い浮かんだ言葉が3つあります。

正直であること

1つ目は「正直」。

オニヅカから訴訟を起こされた時、アメリカ政府から追徴課税を請求された時といった、幾つもの困難に直面した時、ナイキがとった姿勢は一貫していました。素直に自分たちの問題に向き合い、取り繕うことなく、誠実に対応しようと試みました。

本書には、経営者の自伝特有の「自分を大きく見せよう」とする表現があまりありません。印象に残ったのは、オニヅカとの裁判の場面で、フィル・ナイトは自身の答弁が上手くいかなかった事を率直に書いている。自分自身の答弁のせいで、会社を追い込んでしまったのではないかとまで書いています。本書を読んでいて感じるのは、隠したくなくなるような失敗、恥をかいたこと、悲しい出来事といった場面ほど、素直に描かれていることに驚かされました。

山岸俊男さんの著書「信頼の構造」という本には、「正直は最大の戦略である」という言葉が書かれています。「信頼の構造」という本では、様々な実験を行い、嘘をついたり、その場をごまかしてしのいだりするよりは、過ちを犯せば認め、嘘をつかず、正直に生きることが、長期的にみて得をするということを証明しています。

フィル・ナイトは、ナイキは、嘘をつかず、自分に信念を曲げずに、正直に生きていくことを、困難に直面した時の判断基準としていたと、本書を読んでいて感じました。正直に生きていくことために、最後の最後までためらったのが、株式後悔です。フィル・ナイトは、自分たちの信念を曲げて会社を経営するくらいなら、株式を公開しないほうがましだと考え、最後の最後まで抵抗を続けました。本書が株式公開したタイミングで終わるのは、フィル・ナイトにとってそれだけ大きな出来事であり、転換点だったという認識なのだと思います。

反骨のアイデンティティ

2つ目は「反骨」。

ライバルメーカー、政府、銀行など、ナイキほど、様々な相手と戦い続けた企業はないと思います。時にナイキは、マイケル・ジョーダン、タイガーウッズ、ジョン・マッケンロー、野茂英雄といった、「出来っこない」といった批判に真っ向から立ち向かい、チャレンジし続ける選手たちを支援し、「反骨のアイデンティティを持った会社」という企業イメージを確立しました。

しかし、最近のナイキからは、自らが戦いを挑まれる対象になったせいか、反骨のアイデンティティが失われていると感じることがあります。最近のアスリートには、体制に対して戦いを挑もうとしたり、批判の海の中を泳ぎきろうといった、気骨があるアスリートが減ったこともあり、ナイキはサポートする対象も見失っているように感じます。

ルールを守ったことでなく、ルールを破ったことが人々の記憶に残る

最初からやり直したい

3つ目は「後悔」。

株式公開した直後の気持ちについて、フィル・ナイトは意外にもこのように書いています。

喜びはない。安心感もない。何かしら感じるとしたら、それは…まさか後悔だろうか?
そう、そうだ、後悔だ。
正直言って最初からやり直したい気分だった。

本書に書かれている事で最も驚いたのは、フィル・ナイトがこれまでの歩みを肯定しているというよりは、後悔していると感じていることです。従業員を解雇したこと、工場の待遇問題、そして息子の事故死。フィル・ナイトという人は、順風満帆に、追い風をめいいっぱい受けて生きてきた人ではありません。むしろ、精一杯背伸びをしながらも、誠実に、愚直に生きてきた人であることが、本書を読んでいると分かります。

本書はビジネス書なのですが、登場人物たちの失敗を犯しながら仲間とともに成長し続けていく姿を追いかけていると、ワンピースやドラゴンボールのような、冒険漫画を読んでいるような気分になります。年末にぜひ読んでみてください。

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