建築とアートの関係。書評「空間感」(杉本博司)

2014/07/22

現代美術作家として世界的な評価を得ている杉本博司。

彼の事を知らない人も、U2の「No Line On The Horizon」のジャケットの作品を作った人だと説明すれば、その世界的な評価がわかると思います。その杉本博司は、展覧会を美術館で開催したり、建築を写真を撮る機会が多いことから独自の建築感を持ち、「ベネッセアートサイト直島」では空間プロデュースを手がけたり、自らも設計事務所を運営していたりします。

そんな杉本博司が、自らの仕事を通じて関わった建築家と建築家の作品(主に美術館)について語ったエッセイが、本書「空間感」です。

美術館とは「結婚の場」でもあるが、「墓場」でもある。

本書で印象に残ったのは、冒頭に掲載されている著者の美術館についての文章です。現代の建築とアートの関係が、わかりやすく解説されています。
少し長いですが、抜粋して紹介します。

美術館とは祝福されるべき作品と社会との「結婚の場」でもあるのだが、
作品にとっては「墓場」でもある。
(中略)
作品はそこで死蔵され、触ることの出来ない聖遺物となる。
その作品の生みの親も死んで、久しい時が経つと、
命日などの折に日の目を見ることがあるくらいだ。

アーティストとはその墓場を目指して切磋琢磨する悲しくも楽しい職業だ。
私がアーティストとして試行錯誤を始めてから三十数年も経ってから、
ようやく美術館という場で個展が開かれるようになった。
そして時代は建築家がスタートして崇められる時代に入りつつあった。
特に美術館建築は現代の神殿として、都市における文化の象徴として、
中世や近世に教会建築が担っていたような重要な役目と使命を追うこととなった。
金持ちは魂の休載を求めて教会に寄付することを止め、
美術館に寄付をするようになったのだ。

百花繚乱の現代建築会では常にコンペが行われ、
時代を先取りする最先端の美術館が次々と生まれ出てくる。
私はアーティストとして、つまりそれらの建物のユーザーとして辛酸を舐めてきた。
しかし辛ければ辛い程、その辛さを乗り越えた時の喜びもひとしおだ。
その空間が過激であればある程、私の闘志も燃え立つのだ。

建物を見に来る施設であって、アートを見に来る場

本書には、現代の建築家を「スターアーキテクト」と評し、採点表が掲載されています。その採点表が面白い。フランク・ゲーリーのグッケンハイム美術館は、「建物を見に来る施設であって、アートを見に来る場ではない」、シーザー・ペリの国立国際美術館は「建築家の責任よりも、国の設計施工管理体制がこの惨事を招いた」と時に辛辣ですが、建物のユーザーとして、率直な意見が述べられていて、とても面白い。採点表に書かれている文章を読んでいると、やはりアーティストという職業は、人の作品に一言言わずにはいられない職業なのだなと感じます。

アートと建築の関係について、アートの側から書いた文章はあまり読んだことがないので、そういう意味では貴重な作品です。建築を見るのが好きな人には、オススメです。

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