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書評「SWITCH Vol.35 No.3 ほぼ糸井重里」

   

1998年6月6日、ひっそりとあるWebサイトが開設されました。その名は、「ほぼ日刊イトイ新聞」。開設したのは、当時コピーライターをしていた糸井重里さん。徹底して継続する力、丹念な仕事が少しずつファンを集め、来年で20周年を迎えるこのWebサイトは、2012年現在で1日150万ページビューに到達。開設当初から続く糸井重里さんのエッセイ「今日のダーリン」は、開設から休むことなく毎日更新されています。

2017年3月16日にジャスダックに上場することが発表された、株式会社ほぼ日。ほぼ日刊イトイ新聞ではどのように仕事が行われているのか。そして、糸井重里さんはいま何を考えているのか。本書「SWITCH Vol.35 No.3 ほぼ糸井重里」は、糸井重里さん、そしてほぼ日刊イトイ新聞のいまを追いかけた特集です。なお、特集にはMOTHERに関する糸井さんのインタビューも読めます。ファン必読です。

タダでもやりたい仕事をやる

ほぼ日刊イトイ新聞には、公開当初からクリエイターの「まかない飯」を提供するという場所というコンセプトがありました。この記事でも書きましたが、糸井さんが語っていた「まかない飯」とは、映画監督、ミュージシャン、劇作家、俳優といった方々だけでなく、普段人にお金を頂いて何らかの商売をしている人が、「お金にならなくてもいいからやってみたい」と思う物の事を指していたと記憶しています。本書内の「糸井重里とあそぼう」という記事の中でも、糸井さんはこうかたっています。

タダであるということは、ほんとうはぜんぜん嫌じゃないんですよ。
(中略)
タダで頼んでくれて場所をもらえるんだったらそれでいいや、という考え方はあると思います。一方、食っていくためには、お金をもらう必要があるという考え方も、ちゃんと正しい。それは両方共存するものです。

多くの人に受け入れられる商品やサービスを提供している人は、やりたいことがたくさんあるのですが、お金、時間といった制約の問題で、なかなか実現出来ません。特にお金が儲からなくてもやる、というのは簡単ではありません。生活は支えていかなければなりませんから。そんな人々に対して、「まかない飯」を提供出来る場として始まったのが、ほぼ日刊イトイ新聞でした。開始から何年かは全く収益を上げていません。ほぼ日刊イトイ新聞は収益を上げることより、優先したことがあります。それは、「信用を築き上げること」です。

信用とはできるまでにとても時間がかかる

本書には、ほぼ日刊イトイ新聞がいかに信用を築き上げたかを分かりやすく説明している文章が掲載されています。それが、毎週水曜日午前十一時に「ほぼ日」の会議室で開催される、糸井さんが全スタッフに向けて話す場で語られた内容をまとめた「信用農業論」です。印象に残った言葉を抜粋して紹介します。

まず話したいのは、「利益は目的ではなく手段である」ということ。
このこと自体を、知らない人がいっぱいいます。

企業の活動というのは、金銭的な利益と、それから積み重ねていく信用を得ることでできています。利益の話はすごくわかりやすいものですね。目的であろうが手段であろうが、数字にも出ますし、非常にわかりやすい。
だけど、企業が「積み重ねていく信用を得ること」を、利益と同じくらいの重さで考えられているのか?これが、非常に大事になります。

信用にそっくりな言葉で、「評判」という言葉があります。評判と信用はやっぱり違うと思います。
評判っていうのは、他人がよく思ってくれれば良いもの。何十年かという期限があって、途中でバレちゃっても構わない。評判を上げようとする努力はできる。だから企業は広告や宣伝など、様々な要素を使って評判を上げていくことをやっていますよね。それは評判であって、信用ではないんです。

それでぼくが言いたいのは、信用は農業的であるということです。できるまでに、とても時間がかかる。
(中略)
マーケティングやコンサルみたいに「ここをこうしたらいいのに」っていう頭のいい人は、信用が農業的ではなくて、工業的に作り出せるんじゃないかってアドバイスを教えたりします。でも結局それは、評判の上げ下げです。信用の上げ下げは、やっぱりコンサルでもできません。

とにかく、金銭的利益より信用のほうが思い。そういうふうに考えたほうがいい。その判断をして、ほぼ日が助かってきた場面は何度もあります。なかなか切実に悩ましい問題はあったけども、「それはやろう」と決断したことで、後で信用を失わないで済んだ。

なぜ糸井重里さんが支持されるのか

僕が糸井さんのここが凄いと思うのは、言葉を徹底的に噛み砕いて、出来るだけ多くの人に理解してもらえる言葉で説明出来るところです。横文字は使わないし、難しい比喩も使わない。糸井さんの言葉には、画数の多い感じより、ひらがなの方が似合います。横文字や難しい比喩を用いて、さも、頭がよいように、自分が分かっているかのように、物事を語ることが出来る人はたくさんいます。でも、徹底的に言葉を噛み砕いて、出来るだけ多くの人に、少ない言葉で多くの情報を与え、頭の中で想像を膨らませるようにしゃべるのは、簡単ではありません。ここに、糸井重里さんが支持される理由があると、僕は思います。

そして、糸井さんは人の話を聞くということにも、手を抜きません。糸井さんがインタビューや対談をしている時の映像を何度か観たことがあります。映像の中の糸井さんは、相手の目を真剣な表情で観ながら、ときに大きく頷き、ときに感嘆の声をあげたりしながら、一言も聞き漏らさないかのような真剣さで、相手の声に耳を傾けています。糸井さんのように、真剣に自分の話を聞いてくれる人の事を、人は自然と信用します。

僕は、どっちに進もうか迷った時、苦しい時、よくほぼ日刊イトイ新聞を読み返しています。よく、糸井さんの過去のコラムを読んで、自分がどう振る舞うべきか思い返しています。僕にとって糸井さんは、遥か先から、進むべき道を示すヒントをあたえてくれる存在だと、勝手に思っています。久々に本棚にずっと置いておきたい本を買いました。文字数も多いですが、ぜひ多くの人に読んでもらいたい1冊です。

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