書評「戦術リストランテIV 欧州サッカーを進化させるペップ革命」(西部謙司)

本書「戦術リストランテIV 欧州サッカーを進化させるペップ革命」は、2015-16シーズンのサッカーの戦術のトレンドを、トレンドの先端を走ってきたペップ・グアルディオラの戦術を中心に、進化し続けるヨーロッパサッカーの戦術を分析、紹介しています。

西部さんの著書は、最新のサッカーの戦術のトレンドを分析し、どんな特徴があるのか、どんな傾向があるのか、分かりやすく説明してくれます。サッカーの戦術に詳しくない僕は、いつも参考にさせて頂いています。

複数の戦術を使いこなすのは当たり前

本書を読んでいて感じたのは、「複数の戦術を使いこなすのは当たり前」という事です。アヤックスのアカデミーでビデオ分析アナリストとして活躍されている白井裕之さんにお話を伺った時、白井さんは、「戦術とは相手に適応するための手段」というような事を語っていました。相手の力を見極め、勝負に勝つために戦術を変えるチームが増えています。

ある試合ではボールを保持することを優先した戦いをしたチームが、次の試合では相手が強いので守備を重視して戦う。ある試合では4-4-2というフォーメーションで戦ったけれど、次の試合では4-3-3というフォーメーションで戦い、試合展開によっては、試合中にフォーメーションも、戦術も変えてしまう。そんな戦い方が当たり前になっているのだということを、本書は改めて教えてくれます。

選手の個人戦術のレベルが上がっている

監督が複数の戦術を使いこせるのは、選手の個人戦術のレベルが上がったからだと思います。ブンデスリーガ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、プレミアリーグ、リーグアンといったリーグでプレーしている選手たちは、幼い頃からサッカーに対する専門的な教育を受けてきて、様々な戦術に慣れ親しんでいる選手がほとんどです。また、選手自身もテレビゲームで複数のフォーメーションや戦い方を選択してプレーしていたりする世代なので、フォーメーションを変える、戦術を変えるという事に対する抵抗は高くないのだとも想像します。

個人戦術のレベルが上がっているということは、選手が監督の指示を待たずに問題を解決してしまう事もあるということです。メッシやマスケラーノのように卓越した個人戦術で複数の選手を相手に出来る選手、あるいはフィールドで起こっている問題を察知して味方に指示を出したり咄嗟の判断で動ける選手の存在価値は、複数の戦術を使いこなす事が当たり前になればなるほど、高まっていく事になると思います。結局、監督が思い描く戦い方をフィールドで表現するのは選手なのですから。

バスケットボールも複数の戦術を使いこなすのは当たり前

「複数の戦術を使いこなすのは当たり前」なのは、サッカーに限りません。2014-15シーズンにNBAファイナルを制し、2015-16シーズンもNBAファイナルまで進んだ、ゴールデンステート・ウォリアーズも複数の戦術を使いこなせるチームです。ステファン・カリー、クレイ・トンプソンという「スプラッシュブラザーズ」による3Pシュートによる得点ばかり注目されがちですが、ゴールデンステート・ウォリアーズの強さの本質は、監督が相手によって複数の戦術を使いこなし、選手が監督の戦術を理解しつつ、コート内で個人の判断で問題を解決してしまう個人戦術の高さによるものです。

個人戦術とチーム戦術。今後のサッカーのレベルアップおよび進化を追いかけるには、この2つの戦術がどのように進化していくかを追いかける必要があります。本書は「チーム戦術」の切り口で、戦術を理解するには最適な1冊です。ぜひ読んでみてください。

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