走り続けるために。書評「走ることについて語るときに僕の語ること」(村上春樹)

僕は何だかんだで週に2回はランニングしている。走るときは、朝早く起きて走るようにしている。距離は2kmから5km。体調によって変えている。ペースは1km5分ほど。もっと早く走ることも出来るけれど、ゆっくり時間をかけて、周りの風景を見ながら走る。

ランニングを始めるときは、いつも憂鬱だ。どんな人間であっても、朝目覚めてからすぐに能動的に行動出来るわけじゃないと、僕は自分自身に言い聞かせながら目覚めている。朝起きて着替え、1杯のコーヒーを飲んでから、ランニングに出かける。ランニングが終わると、気分がすっきりしている自分に気がつく。この開放感が、僕を走らせてくれるのだ。

ランニングが自分の中で習慣になっている時、必ず読んでいる本がある。それは、村上春樹さんの著書「走ることについて語るときに僕の語ること」です。僕は、この本に大きな影響を受けました。影響を受けたのは、ランニングに関する考え方だけではありません。仕事に対する考え方も、本書から影響を受けました。

継続すること

早く走りたいと感じればそれなりにスピードも出すが、たとえペースを上げてもその時間を短くし、身体が今感じている気持ちの良さをそのまま明日に持ち越すように心がけ。長編小説を書いている時と同じ要領だ。もっと書き続けられそうなところで、思い切って筆を置く。そうすれば翌日の作業のとりかかりが楽になる。アーネスト・ヘミングウェイも確か似たようなことを書いていた。継続することーーリズムを断ち切らないこと。長期的な作業にとってはそれが重要だ。いったんリズムが設定されてしまえば、あとはなんとでもなる。しかし弾み車が一定の速度で確実に回り始めるまでは、継続についてどんなに気をつかっても気をつかいすぎることはない。

モチベーション

基本的な事を言えば、創作者にとって、そのモチベーションは自らの中に静かに確実に存在するもので合って、外部にかたちや基準を求めるべきではない。

生活のリズム

朝の5時前に起きて、夜の十時前には寝るという、簡素にして規則的な生活が開始された。一日のうちでいちばんうまく活動できる時間帯というのは、人によってもちろん違うはずだが、僕の場合のそれは早朝の数時間である。その時間にエネルギーを集中して大事な仕事を終えてしまう。そのあとの時間で運動をしたり、雑用をこなしたり、あまり集中を必要としない仕事を片付けていく。日がくれたらのんびりして、もう仕事はしない。本を読んだり、音楽を聞いたり、リラックして、なるべく早いうちに寝てしまう。おおよそこのパターンで今日まで日々を送ってきた。おかげでこの二十年ばかり、仕事はとても効率よくはかどったと思う。ただしこういう生活をしていると、ナイトライフみたいなものはほとんどなくなってしまうし、人付き合いは間違いなく悪くなっていく。腹を立てる人も出てくる。どこかに行こう、何かをやろうという誘いがあっても、片っ端から断ることになるからだ。

人生の優先順位

本当に若い時期を別にすれば、人生にはどうしても優先順位というものが必要になってくる。時間とエネルギーをどのように振り分けていくかという順番作りだ。ある年齢までに、そのようなシステムを自分の中にきっちりこしらえておかないと、人生は焦点を欠いた、めりはりのものになってしまう。

集中力と持続力は後天的に獲得し、向上させていくことができる。

集中力と持続力はありがたいことに才能の場合とは違って、トレーニングによって後天的に獲得し、その資質を向上させていくことができる。毎日机の前に座り、意識を一点に注ぎ込む訓練を続けていれば、集中力と持続力は自然と身についてくる。これは前に書いた筋肉の調教作業に似ている。日々休まずに書き続け、意識を集中して仕事をすることが、自分という人間にとって必要なことなのだという情報を身体システムに継続して送り込み、しっかりと覚えこませるわけだ。そして少しずつその限界値を押し上げていく。気づかれない程度にわずかずつ、そのメモリをこっそりと移動させていく。これは日々ジョギングを続けることによって、筋肉を強化し、ランナーとしての体型を作り上げていくのと同じ種類の作業である。

負けることには慣れている

僕は、自慢するわけではないけれど、負けることにはかなり慣れている。世の中には僕の手に余るものごとが山ほどあり、どうやっても勝てない相手がやまほどいる。

不健康なものを扱うためには、健康であれ

真に不健康なものを扱うためには、人はできるだけ健康でなくてはならない。それが僕のテーゼである。

すべてのランナーに読んでもらいたい1冊

本書に書かれているのは、「走る」という行為を通した、村上春樹の仕事ならびに人生哲学である。小説家とはどうあるべきか、自分の人生はどうあるべきか、それが思いつくまま記されています。ちなみに、本書は「What I Talk About When I Talk About Running」というタイトルで翻訳され、海外でも人気が高い1冊です。

村上春樹は巻末にこんな謝辞をいます。

これまで世界中の路上ですれ違い、レースの中で抜いたり抜かれたりしてきたすべてのランナーに、この本を捧げたい。もしあなた方がいなかったら、僕もたぶんこんなに走り続けられなかったはずだ。

すべてのランナーに、読んでもらいたい1冊です。

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