『為末大×北野唯我 トークイベント「自分の人生を生きる」』の感想

昨日、『為末大×北野唯我 トークイベント「自分の人生を生きる」』に参加してきました。

このトークイベントは、モデレーターの北野唯我さんと為末大さんの話を軸に、「自分の人生を生きる」というテーマについて、参加者の意見も交えながら、共に考え、議論していくイベントです。一方的に何かを話すというよりは、一緒に考えていこうという考えのもと、進行していました。(双方向にコミュニケーション出来ていたかというと、そうでない部分もありましたが、それは本題とは関係ないので割愛)

不安な個人、立ちすくむ国家

イベントが終わった後、僕はあるレポートと、レポートにまつわる議論の事を思い出していました。それは、経産省が発表した「不安な個人、立ちすくむ国家〜モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか〜」です。経産省の若手有志が作ったこのレポートは、行政文書としては珍しく大きな話題になりました。

このレポートは、専門の経済政策だけでなく、少子高齢化、社会保障、貧困といった問題に踏み込み、個人が抱えている「不安」の源について考えています。「日本が少子高齢化を克服できるかの最後のチャンス。2度目の見逃し三振はもう許されない」という言葉で終わるこのレポート発表後に、スタジオジブリが発行する雑誌「熱風」2017年11月号で、経産省のプロジェクトメンバーと、社会学者の上野千鶴子さん、社会学者の小熊英二さん、作家の雨宮処凛さんというメンバーで行われた座談会が掲載されました。(座談会の内容は、「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のPodcastで聴くことが出来ます)

この座談会の中で、小熊さんは以下のような事を語っています。

私がこのレポートの根本的問題だと思ったのは、偏差値の高い大学を出て、大企業か官僚に勤めた人たちのリアリティが基本になっていることです。たとえば定年後の問題として、年金は手厚いけれどコミュニティに足場がないとか、自治体や町内会に関っていないことがあげられている。でも、そういう「定年後」は大企業や官庁に勤めている人の話です・ここでの「人生すごろく」の人生を歩んでいる人たちは、男女を問わず、日本の人口の2割前後だと思います。

また、雨宮さんは座談会の中でこう語っています。

ずっと貧困の現場の実態を見ている私からすると、貧しい人って老いることができないと痛感しています。30代で亡くなった人も多かったですし、これから先、40代で亡くなる人も増えると思います。
(中略)
たぶん、お金持ちだけが人生100年で、貧しい人の人生はかなり短くなっていくんじゃないかと思います。

意見を交わす人とのレイヤーが違う

実は、昨日のトークイベントの参加者について、自分の職業を発表した人や「弁護士」「コンサルティング会社のコンサルタント」「官僚」といった具合に、一般の人から見ると、とても恵まれた境遇で働いている(その分競争も激烈ですが)人たちが参加していたのです。そんな中、どちらかというと恵まれた境遇で働いているとは言えない(どうにか家族を食べさせられている)僕としては、「恵まれた人々による、恵まれた人生に関する議論だな」とも思ったのです。

トークイベントのコーディネーターを務めた北野さんは、自身のブログの中で、世界が下記の3つに分断されつつある、と書いています。

グローバルカンパニー:世界的に展開する企業。流通コスト、規模の経済で「最強の合理性」を持っている
ローカルチャンピオン:「共感」や「感情」をもとに価値を出す企業。コンテンツやサービス領域以外の産業は淘汰される。
フリーライダー:国や地方自治体などの補助がなければ、実質的に生きていけない人たち。

この分析は、小熊さんが熱風で語った「日本社会の構造」の分析に似ています。小熊さんの分析はこうです。

大企業型:大卒の大企業正社員、公務員など。厚生年金受給者(第2号、第3号被保険者)
地元型:地域に足場を持つ自営業・農業・建設業など(第1号被保険者)
残余型:大企業型に入れず、地元型からも浮いた人々。都市部の中小企業被用者、非正規雇用など

こうやって比較しても、分類分けに違いはあるものの、お二人の考えが似通っている事が分かって頂けるかと思います。僕は小熊さんの分析の方がしっくりくるので、小熊さんの分析を元に話をさせてもらいたいのですが、僕は小熊さんの分析によると、「地元型」に分類されます。

トークイベントに参加されている方や、メインで発言されていた方は、どちらかというと「大企業型」の方が多いと感じました。そうすると、昨日のトークイベントは、どちらかというと「大企業型に属する方の「自分の人生」」について考えるイベントで、僕のような「地元型」や「残余型」の人が考えている事と、少し議論のポイントが違っているように感じたのです。

もちろん、為末さんはイベントの冒頭で「今日のイベントに参加している方々に、食うに困っている人はほとんどいないと思う」と語った上で議論がスタートしているのですが、僕は「大企業型」の方が話をしている内容を聴いていて、違和感をおぼえました。

そして、大企業型の人は、「自分とは違うレイヤーの人がいる」という前提にして、あまり自覚せずに話をしている気がしました。一方、女性の参加者はジェンダーの違いについては自覚があると感じましたので、男性の方が、自分に対する興味関心度合いは強いのだなぁとも感じました。

大企業型の人も不安である

それと同時に、ある事に気がつきました。
それは、「大企業型の人でもこれからの人生に不安を抱いている」という事です。

トークイベントには、ディスカッションの時間もあったのですが、ディスカッションの後、弁護士の方は、これからの人生に対する不安を口にしました。彼がディスカッションしたメンバーには、著名なコンサルティング会社に勤めている人もいましたが、僕のおかれた環境からすると、「不安なんてないだろ」と思う人たちにも、不安はある。その事が分かっただけでも、僕は参加してよかったと思います。

このトークイベントで議論したのは「大企業型」の人々にとっての「自分の人生を生きる」だと、僕は感じました。したがって、「地元型」「残余型」の人々が、「自分の人生を生きる」ために考えなければならない事は別の事だと思います。

では何を考えなければならないか。

このイベントで明確な答えが出たわけではありませんが、僕はこのイベントに参加してよかったなぁと思いました。収入も、地位も、名誉も、参加者の中では持ち得ているほうではないかもしれませんが、僕は、それなりに、「自分の人生を生きている」という自覚があるし、収入も、地位も、名誉もないけれど、そこまで自分を卑下する必要もないなということが分かってよかったです。

何か明確な答えを出してくれるイベントではありませんが、興味がある方は次回以降参加してみても面白いと思います。

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photo by Alisdare Hickson