「鼻歌交じりに出来た作品」書評「ジブリの教科書3 となりのトトロ (文春ジブリ文庫)」

スタジオジブリで最も子供に愛されている作品は、「となりのトトロ」ではないかと思います。金曜ロードショーで放送されれば毎回高い視聴率を記録するだけでなく、トトロというキャラクターを使ったグッズが、スタジオジブリにもたらした収入も無視できません。スタジオジブリにとって「となりのトトロ」とは、単なる一作品以上の影響をもたらした作品です。

そんな「となりのトトロ」の裏側を解説したのが、本書「ジブリの教科書3 となりのトトロ (文春ジブリ文庫)」です。

「カリオストロの城」の頃に、トトロの企画案があった。

本書の冒頭を読んでいて、驚いたことがあります。それは、「カリオストロの城」を制作した後に、トトロの企画案が出来ていたという事実です。さらに驚かされたのは、トトロの企画と同時期に、「もののけ姫」や「ゲド戦記」といったその後ジブリで制作された作品の企画が検討されていたという事実です。

川上量生さんの著書「ルールを変える思考法」によると、スタジオジブリは「そのときにつくりたい作品を、その時代に合わせてつくっている」と語られていますが、トトロという作品の企画がかなり前から検討されていたという事実からも、スタジオジブリの作品に対する考え方がよくわかります。

二本立てから生まれた奇跡の作品

「となりのトトロ」を語る上で無視できないのは、「火垂るの墓」との二本立てとして、制作されたという事実です。「火垂るの墓」の監督は、高畑勲。したがって、「となりのトトロ」という作品は、今まで自身の作品作りに大きな影響を与えていた高畑勲という存在を明確に意識した上で、自身の主張を初めてぶつけた作品なのです。

だから、本書には「火垂るの墓」の制作状況を気にしている宮﨑駿のエピソードが数多く登場します。「火垂るの墓」の制作時間が80分に延びたため、当初1人だった女の子を、サツキとメイの姉妹に変更したエピソードが、「火垂るの墓」が「となりのトトロ」の制作に及ぼした影響の大きさを、よく表しています。

苦しまずに出来た作品

「火垂るの墓」の進行状況を気にしながら作ったというエピソードからも、「となりのトトロ」の制作からは、産みの苦しみは伝わってきません。鈴木敏夫さんの回想録にも「鼻歌交じりに出来た作品」と書かれていますが、自然に、伸び伸びと、自分の持っているものをそのままぶつけた作品、それが「となりのトトロ」だったんじゃないかという気がします。

自然に、伸び伸びと作られたからこそ、劇中に使われた「さんぽ」や「となりのトトロ」といった楽曲が、今も親しまれている要因なのかもしれません。名曲は短時間で作られるというエピソードを聞いたことがありますが、色々工夫して作った作品より、ポロッと力を入れずに作った作品だからこそ、これだけ多くの人に愛されているのかもしれません。

宮﨑駿の代表作がいかにして生まれたのか。
その秘密を知りたい方には、オススメの1冊です。

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