書評「かくて行動経済学は生まれり」(マイケル ルイス)

マイケル・ルイスが2003年に書いたある書籍は、その後のスポーツに大きな影響を与えました。

ある書籍の名は、「マネーボール」。メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが、「セイバーメトリクス」と呼ばれる独自の手法と統計学を用いて、プレーオフ常連の強豪チームを作り上げていく様子を描いた書籍は、全米だけでなく、世界中で話題となりました。

この書籍をきっかけに、スポーツで統計学を用いた分析が取り入れられるようになり、昨年出版された「ビッグデータベースボール」という書籍で紹介されましたが、、プログラムを用いて大量のデータを分析する手法が当たり前のように取り入れられるようになり、野球だけでなく、サッカー、バスケットボールといったスポーツに取り入れられています。

しかし、本書の出版後、著者のマイケル・ルイスはある書評を目にします。後にノーベル経済学賞を受賞するリチャード・セイラーという経済学者と、キャス・サンスティーンという法律学の教授による書評には、こう書かれていました。

「マネーボール」の著者は、野球選手の市場がなぜ非効率的なのか、もっと深い理由があることを知らないようだ、と。
それは人間の頭の中の働きから生じている。

そして、野球の専門家がなぜ選手を見誤るのか、またどんな分野の専門家でも、その人自身の頭の中でなぜ判断が歪められてしまうのかについては、すでに何年も前に説明がなされている。

この書評にマイケル・ルイスは、とても興味を持ちます。判断を下したり、意思決定を行ったりするとき、人の頭がどう働くのか。なぜ上手く働かないのか。そして、その道のプロと言われる人であっても判断を誤る理由は何か。調査を開始したマイケル・ルイスは、ある2人の心理学者にたどり着きます。2人の心理学者が生み出した学問が「行動経済学」。伝統的な経済学では説明のつかない人間の非合理的な行動について、心理学的な見地も念頭に置きながら理論的に説明する学問です。

本書「かくて行動経済学は生まれり」は、2人の心理学者がいかにして行動経済学を生み出したのかについて書かれた1冊です。

人の決断を左右する「バイアス」

本書のキーワードは、「バイアス」です。「バイアス」とは、「偏り」とか「思い込み」とか「先入観」といった言葉で表現されます。たとえば、目の前に銀色の灰皿があったとすると、99%の人は「灰皿」だと判断するはずです。物事をいちいち「これは銀の皿で、○○に使って」と考えていたら、迅速な判断が出来ません。「バイアス」があることによって、人は迅速に判断出来るようになっているのです。

一方、「バイアス」は、ある事象を自分にとって好ましく判断してしまう要因になってしまうことがあります。人を判断する時、あの人はいい人という「バイアス」がかかってしまうと、自分が好ましいデータにばかり集めたり、自分の判断とは違うデータが集まっても、自分の好ましい方に判断したり、否定してしまいがちです。よく「直感は正しい」と聞くことがありますが、バイアスがかかった状態で人が判断したことは、間違っている事もあるというわけです。

NBAのGMも「バイアス」の罠にかかった

本書は、2人の心理学者が、なぜ行動経済学を生み出したのかを、詳しく説明しています。そして、バイアスがかかった状態で判断してしまう例として、NBAヒューストン・ロケッツのGMを務めるダリル・モリーのエピソードが紹介されているのも興味深いです。ダリル・モリーは、NBAで統計学を用いた選手評価システムを導入したことで知られていますが、そんなダリル・モリーがバイアスの罠にかかって失敗した例は、行動経済学を導入する上での参考になるはずです。

僕は最近「意思決定」をどのように行うのかについて、様々な文献をたどって勉強しています。物事を決断する上で、どのように基準を設け、どういうプロセスで決断すればよいか。意思決定のプロセスを知ることが出来れば、自分の仕事だけでなく、スポーツのデータ分析にも役立つのではないか。そう考えて、「ディシジョンマネジメント」の文献などを調べていたところでした。

本書を読んで、より深く「意思決定」について調べてみたいと思うようになりました。とりあえず、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」から読んでみようと思います。

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