なぜスポーツアナリストはプレゼンが上手いのか。書評「人はデータでは動かない: 心を動かすプレゼン力」(渡辺 啓太)

日本スポーツアナリスト協会が主催した、「SAJ2014」というイベントで、バレーボール、フェンシング、卓球といったスポーツアナリストの方々のプレゼンを聞いたのですが、全てのアナリストたちのプレゼンに、1つの共通点がありました。それは、「プレゼンが上手い」ということです。伝えたいことを的確に伝え、PowerPointやKeynoteといったツールを使いこなしながら、よどみなくしゃべるのです。彼らのプレゼンを聞きながら、「ビジネスの世界でもよい仕事をするだろうなぁ」と感じたのを、思い出します。

スポーツアナリストは、プレー中のパフォーマンスをデータとして集計し、解析する仕事です。職種だけ聞くと、データとにらめっこしているイメージがあり、とてもプレゼンが上手いようには思えません。

なぜ、スポーツアナリストはプレゼンが上手いのか。僕の小さくない疑問に、答えてくれたのが本書です。本書「人はデータでは動かない: 心を動かすプレゼン力」は、SAJ2014でもプレゼンした、全日本女子バレーボールチームのチーフアナリスト渡辺啓太さんが、集計したデータをいかに選手に伝え、理解してもらうのか。自身の取組を元に、「データの有効性を人にどう伝えるのか」について語った1冊です。

選手にデータの有効性を理解してもらう

本書に書かれていることは、仕事のプレゼンで必要なスキルと同じです。伝えたいこと、プレゼンのターゲットを明確にし、伝えるべき情報を選定する。特別な秘訣は書かれていません。むしろ、ビジネスで必要なスキルを、スポーツアナリストとして長年スポーツの世界で仕事をしていた渡辺さんが、自然と身につけている事に驚かされます。

なぜ、渡辺さんはプレゼンスキルを身につけることが出来たのか。それは、必要に迫られて身につけたスキルなのだと、本書を読み進めていて分かりました。スポーツアナリストの仕事は、データを集計、解析するだけではありません。解析したデータを選手に伝え、実際のパフォーマンス向上に活かすことが出来なければ意味がありません。選手の中には、データに対する嫌悪感を持つ人もいます。データに嫌悪感を持つ人に、いかにデータの有効性を伝えるか試行錯誤していく過程で、渡辺さんはプレゼンスキルを身につけ、高めていけたのです。

スポーツアナリストという仕事を理解してもらう

また、渡辺さんがプレゼンスキルを身につけることが出来たのは、スポーツアナリストという仕事を人に理解してもらう必要があったからです。スポーツアナリストとは、どんな仕事か。今でこそ、スポーツアナリストの重要性は高まっていますが、渡辺さんがスポーツアナリストの仕事を始めた頃は、スポーツアナリストという職種もなく、有効性も理解されていませんでした。渡辺さんは、自身のやりたいことやスポーツアナリストという仕事の重要性を、プレゼンを通じて伝えつづけました。渡辺さんの地道な取組によって、全日本女子バレーボールチームの情報分析能力は世界一とも言われ、ロンドン五輪銅メダルを獲得出来た大きな要因となりました。

データを扱うからこそコミュニケーションが必要

僕のようなサラリーマンでも、自分の考えていることや希望を、人に伝えなければならない局面は、しょっちゅうあります。プレゼンとは、TEDのように人前でしゃべる能力のことだけを言うのではなく、コミュニケーションの一つだと僕は思っています。データを扱っているからこそ、パソコンに向き合って過ごすのではなく、むしろ人と人とのコミュニケーションを綿密にとる必要があることを、本書は教えてくれます。

バレーボールやスポーツに興味がある人にとっては、仕事でも活かせるプレゼンのポイントを、分かりやすく学ぶことが出来る1冊です。

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