正直と信頼のWebメディア。書評「ナタリーってこうなってたのか 」(大山卓也)

ナタリーというWebサイトをご存知でしょうか。

ナタリーとは、音楽、コミック、お笑いなどのジャンルに特化した情報サイト。月に2000本以上のニュース記事を配信し、月間PV(ページビュー・閲覧回数)が約3100万という国内最大級のポップカルチャーのニュースサイトです。先日KDDIがナタリーを運営する株式会社ナターシャを子会社化することを発表したことでも、注目を集めました。

僕は好きなアーティストのリリース情報をチェックするのに使う程度で、毎日毎日訪れるようなユーザーではありません。Yahoo! Japanなどのニュースサイトにもナタリーのニュースが配信されるようになってから、ナタリーという名前をよく目にするようになりましたし、最近何か音楽に関する情報を調べたいと思ったら、ナタリーにアクセスすることが増えましたが、その程度のユーザーです。

ただ、会社の同僚が「ナタリーに関する本が面白いよ」と言われて読んでみたのですが、これが思いの外面白かったで、ご紹介したいと思います。

前置きが長くなりましたが、本書「ナタリーってこうなってたのか 」は、ナタリーの創業者がその歩みと哲学をまとめた1冊です。

「批評をしない」「全部やる」

ナタリーとは、創業者が自分で始めた音楽サイトが元になっています。その音楽サイトを立ち上げた時、「この2つは絶対に守ろう」と決めたコンセプトがあります。

  1. 批評をしない
  2. 全部やる

この2つのコンセプトは、現在のナタリーにも受け継がれています。

「批評をしない」「全部やる」ニュースサイトは、どのように運営されているのか。本書の中では、ナタリーがどのように運営されているのか、包み隠さず紹介されています。それが、本書の読みどころの一つです。

記者全員が朝10時に出社して、1人あたり数百件のウェブサイトをひたすらチェックする。アーティストやマンガ家、事務所、出版社、レコード会社などのTwitterアカウントもリストで巡回する。あらゆる媒体に目を通してネタを拾い、毎日数百通届くプレスリリースをチェックし、それらをもとに多いときで1人あたり十数本の記事を書く。合間にインタビュー原稿をまとめ、記者会見の現場を訪れ、写真のセレクトをして、夜はライブに行ってレポート記事を書く。さらに朝から晩まで電話取材。言葉にするとどれもこれもニュースメディアとしてやるべき、当たり前のことばかりだ。収益を上げる魔法のようなノウハウも、劇的にPVを右肩上がりにするメソッドもない。ただひたすらに普通のことを続けているだけ。

そして、著者はこう続けます。

もし今のナタリーが唯一無二のカルチャーメディアになれているとしたら、それは単純に、こんなに地味で面倒くさいことをやり続ける人たちが他にいなかっただけだろう

地味で面倒くさいことをやり続ける。これがナタリーの強みだと僕は感じました。

地味で面倒くさいことを続けて、初めて信頼が得られる

僕が本書を読み終えた後、ナタリーと同じように、「地味で面倒くさいこと」を淡々と続けている、あるWebサイトのことを思い出しました。それは、「ネタフル」です。「ネタフル」とは、コグレマサトさんが運営するブログで、毎日5〜10本程度の記事を、淡々と更新し続けるブログです。取り上げたニュースに対する批評はせず、あくまで紹介するだけ。2002年にスタートし、2003年にブログ形式になってからも、ずっと同じスタイルで運営されています。

批評をしたり、過激な意見を言わないメディアは、炎上することもない分、ユーザーに広まるまでには時間がかかります。しかし、ネタフルやナタリーは地道に更新を続け、毎日一定量の情報を配信し続け、時間をかけてユーザーの信頼を勝ち取りました。

Webメディアが支持されるには、時間も手間暇もかかります。これは、実際のビジネスでも同じことです。Webだから時間が短縮できるわけではありません。ユーザーのつながりを築くなら、時間と手間暇を怠ってはならないのだと、本書を読んでいて改めて感じました。

正直は最大の戦略

以前このブログで紹介しましたが、山岸俊男さんの「信頼の構造」という本があります。様々な実験を繰り返した結果、相手の行動を信頼し、正直に行動した人が、最もよい成績をおさめるということを証明した書籍です。ナタリーは、まさに「信頼の構造」で書かれていることを実行しているWebメディアだと思います。

「正直は最大の戦略」という言葉があります。ナタリーに戦略があるとすれば、その正直さかもしれません。ナタリーが引き続き正直さを維持して、運営していくことが出来るのか。本書を読み終えて、ナタリーの今後に注目していきたいと思いました。

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